アインクラッド 後編
嗤う三日月、紅の幽光
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雨粒が何度も目に入った。
それでも、先のボス戦で手に入れた膨大な経験値によってレベルを上げ、そこで得たポイントのほぼ全てを敏捷に振り、《ブラストウイングコート》で強化したマサキは間違いなく攻略組で、SAOに存在するプレイヤーで最速だ。そして何より、トウマは強い。自分が辿り着く前に死ぬはずがないのだ。必死に自分へ言い聞かせながら、マサキは走ることだけに集中した。
簡単な門すらない村の果てを何の感慨もなく西へ抜けると、クリスマスツリーのような円錐状に枝をつけた木々が並ぶ針葉樹林が広がる。高い密度で群生する木のせいで直線にラインを取れずスピードが落ちるが、頭上を覆う葉が天然の傘になってくれたのは有難かった。方向感覚を失わぬよう、常にトウマの位置を確認しながら駆けていくと、視界にトウマのカーソルが映った。マサキの心臓が跳ねたのと同時に視界が開ける。
背の短い草に覆われた半径五十メートルほどの円形の草原で、十人以上のオレンジカーソルが中央の小高い丘を囲んでいた。丘の頂点には周囲の森のものと比べて一際立派な大木がそびえていて、トウマはそれを背に一メートル以上はある愛用の大剣を構えていた。
目が合ったような感覚。トウマからもマサキのカーソルは見えているだろうから当たり前かもしれない。そして、マサキが次に考えることも、彼なら正確に汲み取れるはずだ。
「さあ、鬼ごっこはここで終わりだぜっ!」
トウマが大剣を振り上げるのに合わせてマサキが駆け出す。それまでの単なる移動ではなく、明確な目標を持った襲撃として。《ブラストウィングコート》の特殊能力を用いて姿を消す。手に握るのはエクストラスキル《風刀》専用武器、《蒼風》。未確認のスキルである風刀スキルは、騒ぎになりかねないため未だ公開していない。それがこの戦闘で露見してしまう可能性もあったが、トウマの命と天秤にかける気はさらさらなかった。
鬱陶しい大雨も、この時ばかりは足音を消す最高のノイズとして機能した。息を潜め、最寄の襲撃者までの三十メートルほどを一息に疾駆し、長槍を持つ右腕の肘から先を切り飛ばす。
「ぎゃあああああっ!? お、俺の右腕が急にぃぃィッ!?」
突然味方から上がった悲鳴にオレンジ達がぎょっとしてこちらを向くが、マサキのスピードの前ではその時間すら命取りになる。近くの盾持ち片手剣士に踊りかかり、肘から先と一緒に武器を飛ばす。そのタイミングでトウマの方からも悲鳴が上がった。無論敵のものだ。突然現れたマサキが周囲の注目を引いた一瞬を逃すことなく動いたのだろう。継戦能力を喪失した男を突き飛ばしてマサキは笑みを浮かべた。全く、打てば響きすぎて気分が悪い。
左手で投擲用の短剣を抜き、マサキとトウマの中間点付近にいた片手剣士の男に投げつける。毒も塗られていないただの投剣だ、命
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