アインクラッド 後編
嗤う三日月、紅の幽光
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いた。舌の上に強い苦味が広がるが、コクはあまり強くなくてサッパリしている。朝目覚まし代わりに飲むのに適しているだろうか。
「あー……そうだよなあ、行くしかないよなぁ……」
マサキが悠々と好みの味を探して調整を続けていると、トウマが跳ね返った茶髪をわしゃわしゃとかきながら立ち上がった。
「どうした?」
「いやあ、ちょっと今日中に行かなきゃいけない用事でさ。ちょっくら行って来るから」
「そうか」
短いやり取りの後、トウマは宿を出て行く。マサキはコーヒーを飲みながら、特に何かを思うこともなく、それを見送るのだった。
日が沈む頃になると、天候は未だ回復の兆しを見せずにいたものの、家路につく人々でそれなりの賑わいが戻った。今頃は宿のレストランも混み合っていることだろう。マサキは朝と昼を遅めに食べたためそれほど空腹というわけではないが、できればそろそろ何時頃食事にするか決めておきたいところだ。しかし、相方のトウマは昼に出かけたきり帰ってきていなかった。
フレンドリストからトウマの場所を確かめると、どうやら彼は二十四層の西のはずれにある針葉樹林帯にいるらしいことが分かった。ダンジョンでないならメールの送受信機能も使えるはずだ。夕飯をどうするのかだけでも聞いておこうとホロキーボードに手を伸ばしたマサキだったが、その瞬間に割り込んできたメール受信画面を見て眉をひそめる。
差出人は、今まさにメールを送ろうとしていたトウマだった。それを見て一旦緩んだマサキの顔が、文面を読んだ途端に張り詰めた。
「おれんz 終われてる」
短い上に打ち間違いの多い文だったが、「オレンジ、追われてる」と打ちたかったのだろうということは容易に想像がつく。マサキは大慌てで転移結晶を取り出すと。トウマの現在地から最も近い街を叫んだ。
転移が完全に完了するのを待ち切れずに走り出す。開けた視界はやはり土砂降りで、灰色に濁った世界は湿った土の匂いに満ちていた。
濡れた路面を考慮せずに飛び出したせいで、一歩目の着地と同時に足を滑らせるが、すぐに立て直す。
そこはひどく寂れた村だった。碌に舗装もされていない道の両側に腐りかけの看板を出した宿とアイテムショップがある他には店らしきものも見えない。雑草が生え放題になった平地にぽつぽつと民家が並んでいて、全て北欧風の木造建築だった。しかしそこに人が出入りする様子はなく、夕方の一番賑わう時間帯だというのに一人の姿も確認できない。これではトウマの援軍になるようなプレイヤーなど夢物語でしかないだろう。
土が剥き出しになっている道は雨でところどころがぬかるんでいて走りにくい。スピードを上げようとするが、路面状況の悪さが足を引っ張っていた。気ばかりが急いて体が追いつかない。服が雨を吸って重くなっているのか。
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