403部分:第二十五話 花咲く命その十九
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第二十五話 花咲く命その十九
その王の中で普遍なことをだ。王は話すのだった。
「そしてフランスの芸術を」
「ルイ十四世のですね」
「マリー=アントワネットもだ」
バロックにロココも加わった。
「優雅な。豪奢な余裕がある」
「優雅かつ豪奢な」
「その余裕をドイツにも入れよう」
王の考えが動いていく。それはまだ王の中にあるだけだった。しかしそれは王の中から出て。そのうえで芸術になろうとしていたのだ。現実に。
そのこともだ。王は見ていた。
「ドイツに、いやどの国にもだ」
「それまでなかったものですね」
「そう。それをこのバイエルンに築く」
「ミュンヘンに」
「ミュンヘンに築くのが理想だが」
それだけではなかった。さらにだった。
「それができなければ」
「その場合は」
「バイエルンに。私の愛するこの国に築く」
こう言ってだった。王は夢を見るのだった。
しかしその夢の中にはだ。彼女はいなかった。
ゾフィーにだ。彼女の友人達が話す。その話すことの内容は。
彼等は怪訝な顔になりだ。話していた。
「あの、陛下は一体」
「何を御考えなのでしょうか」
「婚約を延期されるとは」
「こんなことは聞いたことがありません」
「前代未聞です」
こう言うのである。
「以前より時折奇矯なことをされる方でしたが」
「このことは特にです」
「訳がわかりません」
「王のお考えは」
「何もかもがです」
「まさか」
その中でだ。一人が言った。
「陛下は御成婚を望まれていないのでは」
「まさか。そんなことは」
「そうです。有り得ません」
「幾ら何でもです」
「そんなことが」
他の友人達がそのことをすぐに否定した。しかしだ。
これまで黙っていたゾフィーがだ。こう言ったのである。
「いえ」
「いえ?」
「いえといいますと」
「陛下は私を」
静かにだ。こう彼等に話すのである。
「エルザと呼ばれます」
「エルザ。ローエングリンのですね」
「あのヒロインのことですね」
「そうですよね」
「はい、あのヒロインとです」
このこともだ。彼等にも話すのだった。
「そう呼んでくれます」
「では陛下はローエングリンですね」
「あの騎士になりますね」
「ゾフィー様がエルザならばあの方は」
「そうですね」
「はい。あの騎士は」
このことは友人達も知っていた。王の意中の作品のことはだ。彼等も知っているのだ。
その中でだ。また話す彼等だった。
「ではよいのでは?」
「はい、ローエングリンならば」
「あの騎士は確かに見事です」
「舞台はおろか全てを支配するものがあります」
「騎士ローエングリンとエルザ姫」
まさにこの二人はだというのだ。
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