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逆さの砂時計
純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 11
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かり閉まった音を確認した途端、執務室内に和やかな空気がふわりと漂い出す。
 「……ふふ! 本当にお久しぶりね、ヴェルディッヒ殿下。お元気でしたか?」
 「ええ。プリシラ嬢もお変わりなさそうで、なによりです」
 同じ王都内に住む従姉弟同士という間柄が気兼ねを無くさせるのか、敬語こそ外さないものの、二人の表情はとても柔らかい。
 セーウル殿下と同じ村に住んだ過去を持ち、「生贄」の洗礼を受けた経験もあるミートリッテの心中は「誰だこの二人」の一言に尽きる。
 「一方的にお呼び立てして、すみません。ところで、其方の方をご紹介いただいても?」
 「はい。彼は、ボナフィード=フルウム=ベルヘンス。私付き騎士団の団長で、北方領南部に在るベルヘンス伯爵領の現領主です」
 「初めまして、プリシラ次期大司教様」
 セーウル殿下の紹介で一歩前に進み出たベルヘンス卿が、プリシラに向かって礼を執る。
 刹那。
 藍色の虹彩が妖しく煌めいた。
 脇で黙って見ているミートリッテの頬が僅かに引き攣る。
 ああ、始まったな……と。
 「ベルヘンス領と言えば、良質な雪解け水が流れ込んでいる地域ですわね! 私、あの辺りで売られている小麦製品が特にお気に入りなのよ」
 「光栄です。小麦製品は、我々地元民が最も力を入れている特産品。もしも次にお会いする機会がございましたら、お薦めの一品を持参致しましょう」
 「まあ、嬉しい! とても楽しみですわ。その時は、私の可愛い第一補佐・ミートリッテ=ブラン=リアメルティの分もお願いしてよろしくて?」
 ちらりと横に走るプリシラの視線。その先に立つミートリッテを見たベルヘンス卿は、両手の指を軽く握り込み
 「勿論。お二人で楽しめる物をご用意致します」
 顔色一つ変えず、にこやかに即答した。
 「へ、あ、お気遣いありがとうございます」
 「どういたしまして」
 ベルヘンス卿とも面識が有るミートリッテは、彼の印象が以前と違う気がしてつい戸惑い気味に応えてしまったが、ベルヘンス卿は気分を害した様子も無く静かな微笑みを浮かべている。
 ミートリッテが世話になった時の彼はもう少し慌ただしい性格だったと思うのだが……落ち着き無く視線をさ迷わせる今のミートリッテのほうが、余程挙動不審だ。
 細めた目でミートリッテを見つめる二人の男性に、プリシラはゆっくりと目蓋を下ろし……そっと開いた。
 表出したのは、我が子の成長を見守っている母親のような、優しい微笑み。
 「では。早速で申し訳ないのですが、殿下は会議室にてミートリッテと共に私の代理人を。ベルヘンス卿は孤児院への同行を。よろしくお願いいたします」
 「「お任せを」」
 姿勢を正した王子と騎士に悠然と頷き。二人の間に挟まれた次期大司教が扉を開いて廊下へと歩み出る。
 最後に
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