400部分:第二十五話 花咲く命その十六
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第二十五話 花咲く命その十六
「救われたい。だが」
「だが?」
「救われるのは女性の筈なのだ」
しかしなのだった。王は。
「私は男性だ。それでは」
「救われないと」
「いや、男性も。その世界にいる者は誰であろうとも」
「救われますね」
「そうである筈だ。私は救われるのか」
自然にだ。王は救済を見ていた。キリスト教の最後にあるその救済をだ。そしてその救済を夢見ながらだ。王はまた言ったのだった。
「彼によって」
「陛下、救われるとしたら」
「そうであれば」
「御成婚によってではないでしょうか」
ホルニヒは現実のことを話した。彼がいる世界からだ。
「それではないでしょうか」
「結婚か」
「はい、それは間も無くです」
「そうであればいいが」
だが王はそれでもだった。信じられないといった顔であった。
そしてその顔でだ。また言うのだった。
「救済は。結婚によってか」
「はい、そうではないでしょうか」
「女性と結婚して」
「やはり私はそう思うのですが」
「わかっているのだ」
頭ではだというのだ。
「だが」
「だがですか」
「私はどうしてもあの騎士を見てしまう」
ローエングリンを。見ずにはいられなかった。
「そして愛さずにはいられないのだ」
「では陛下」
「何だ」
「その彼の音楽を聴かれてはどうでしょうか」
王の憂いを見てだ。ホルニヒは提案した。
「そうされては」
「そうだな。今からな」
「はい、そうすれば彼にです」
そのだ。ローエングリンにだというのだ。
「出会えますから」
「朝食の後で聴こう」
「朝は何を召し上がられますか」
「簡単に。パンとソーセージを」
ドイツの伝統料理だ。それをだというのだ。
「それとビールだな」
「ビールも飲まれるのですね」
「実はな。嫌いではない」
それを否定しなかった。王もまた。
「ワインも好きだがビールもだ」
「そうだったのですか」
「貴族的なものだけではなく」
それだけではないというのだ。
「そうした。ドイツの味もだ」
「それは知りませんでした」
「平民を馬鹿にする貴族もいる」
そうした者はどの国にもいる。欧州の厄介ごとの一つだ。貴族制ではどうしても起こってしまうことだ。
「だが私は」
「違いますか」
「ドイツの全てを愛している」
これは紛れもないことだった。
「平民やそうしたことは」
「関係ありませんか」
「貴族はやがて廃れる」
時代の流れはそうなっていた。王はそれも見ていた。
「ドイツではユンカーが没落しているな」
「そうですね。プロイセンでは」
ビスマルクもそのユンカー出身だ。その彼等が軍に入りプロイセン軍の中核にもなっている。ドイツも産業革命で変革を受けて
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