4部分:前奏曲その四
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
前奏曲その四
「だがそれ以上のものをだ。あの方は残されるような気がする」
「おいおい、まだ生まれられたばかりなのにかい」
「何もされていないというのにか」
「そうだ、感じる」
これははっきりと言うのであった。
「あの方はだ。必ず何かをされる」
「ううん、そうなのか」
「そうした運命なのか」
この時ワーグナーはまだ広く認められるところまではいっていなかった。彼の音楽はその斬新さ故に認められないことも多かった。彼はまだ借金に追われるしがない人物だった。
しかしだ。ワーグナーは確かに言ったのであった。この王孫には運命があるとだ。
そしてである。やがて彼に弟が生まれた。
名前はオットーと名付けられた。彼の誕生もまたバイエルンの祝福に包まれた。
このことをだ。中年の男も喜んだ。
彼もまた王族だった。名前をルイトポルドという。太子の二番目の弟である。温和な表情をしておりそのうえでだ。こう甥に対して話すのだった。
「ルートヴィヒ、おめでとう」
「おじさん、僕に弟が生まれたんですね」
「うん、そうだよ」
その穏やかな顔で彼に話したのだった。
「おめでとう、卿は兄になったんだ」
「はい、有り難うございます」
まだ子供でありならわしにより少女のドレスを着させられている。だがその顔立ちは幼いながらも非常に整った。男性的なものがある。
その顔でだ。叔父に対して答えるのだった。62
「僕はこれからオットーと共に」
「生きていくというんだね」
「そうあるべきですね」
「そう、その通りだ」
自分を見上げる甥の顔を優しく見続けている。
「そうするんだ、絶対に」
「わかりました」
「このヴィテルスバッハの者の務めは」
ここでこんなことも話す彼だった。
「愛することだ」
「愛することですか」
「そう、愛することだ」
それだとだ。甥に話すのである。
「それが務めなのだ」
「愛することがですね」
「臣民を、バイエルンを」
まずはこの二つだった。
「そして。かけがえのない相手をだ」
「かけがえのない相手」
「それはやがてわかる」
今はあえて言わないことにしたのだ。まだ幼い甥にはわからないだろうと思ってダ。そしてそれはその通りであった。
「だがその相手を知り見つけた時は」
「その時は」
「愛することだ」
そうせよというのだった。
「いいな、愛することだ」
「何があってもでしょうか」
「勿論。その通りだ」
あえて言葉をだ。強く告げたのだ。
「愛することだ」
「そしてそれがですか」
「ヴィテルスバッハ家の者の務めだ」
そうであるとだ。話すのだった。
「わかってくれるか」
「わかりました」
甥は叔父にこう返した。そしてだった。叔父にこうも言うのだっ
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ