399部分:第二十五話 花咲く命その十五
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第二十五話 花咲く命その十五
その愛の対象であるホルニヒを見てだ。王はまた話した。
「特に彼は」
「まさかその彼とは」
「やはりローエングリンだ」
この世にいない彼がだ。彼の最高の恋愛の対象であり続けていた。
「彼と共にいたいのだ」
「聖杯城から出る白銀の騎士が」
「聖杯、主の血を受けた至高の宝」
ここでもキリスト教だった。
「その力はまさに主の力」
「それがあの剣に入っているのですね」
「その通りだ。それが彼だ」
ローエングリンだというのだ。
「その彼こそがだ」
「陛下の」
「おかしな話だ」
自嘲気味にだ。王は笑って言った。
「それは」
「おかしいと言われますか」
「そうだ。彼は現実にはいないのだ」
「それは確かにそうですが」
「その彼のことを想う」
それをまた言う王だった。
「そうせずにはいられない」
「彼を。しかしですね」
「彼がいなくては。若し彼がいなくては」
その現実にいないだ。ローエングリンがだというのだ。
「私はどうなっていたのかわからない」
「そこまでなのですか」
「幼い頃にはじめて出会った」
そこからだった。二人の出会いは。
「絵画の中にいる彼に」
「最初は絵画でしたか」
「そこにいたのだ、彼は」
ローエングリンに会ったのは。そこからだった。
「そして十六の頃にだ」
「歌劇においてですね」
「運命の出会いだった」
まさにだ。王にとってはだった。
「あの。白鳥に曳かれた小舟に乗って姿を現した彼と」
「ローエングリン。彼が」
「彼は一つの存在なのだ」
「一つのとは?」
「ローエングリンはタンホイザーでもあるのだ」
まずはだ。彼だというのだった。
「そしてヴァルターでもありトリスタンでもあり」
「他の作品の主人公でもあるというのですね」
「ジークムントとジークフリートの親子もだ」
親子であってもだ。彼等もだというのだ。
「無論トリスタンも」
「あの彼もですね」
「最後の。パルジファルも」
今ワーグナーが考えているだ。その作品の主人公も然りというのだ。
王はワーグナーの作品のことを何処までも深くわかっていた。まるで彼のその中に全てがある様にだ。それがわかっているのだ。
それでだ。彼は話すのだった。
「彼等は一つなのだ」
「その一つの存在を」
「私は想っている」
そうだというのである。
「そしてそれが自然に思えるのだ」
「ヘルデンテノール達と」
「英雄。それはこの世の英雄ではない」
「この世の英雄ではなく」
「神の世界からこの世界に来た英雄なのだ」
何処までもだ。彼等はこの世の存在でないというのだ。
「救いの為に」
「救いの」
「そうだ。私はだ」
王自身はどうかとも話す
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