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戦国異伝供書
第十八話 道を走りその九

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「そのうえでな」
「武田家とですな」
「戦う」
「左様ですな」
「そうなるか」
「ですな、ただ」
 ここでこうも言った蒲生だった。
「今もです」
「弾正めか」
「あ奴は」
「動いておらぬな」
「それもです」
 その動きもというのだ。
「全くです」
「見せておらぬのう」
「おかしいのう」
「はい」
 こう言うのだった。
「まだです」
「探っておるか」
「時を」
「そうか、ではな」
「何時仕掛けてくるか」
「それを待っておるか」
「今我等はまさにです」
 蒲生は剣呑な顔で話した。
「あ奴に何時裏切られてもです」
「おかしくないか」
「はい、あ奴は絶好の時と見れば」
「即座にじゃな」
「裏切り」
 そしてというのだ。
「背中からです」
「毒針を刺しにかかるか」
「その時を狙っています」
「嫌な話じゃな」
「ですから」
 それ故にというのだ。
「与三殿がです」
「あ奴の陣のすぐ後ろにおられてな」
「何かおかしな素振りを見せれば」
 まさにその時はというのだ。
「切り捨てるおつもりです」
「そういうことじゃな」
「与三殿がおられてよかったですな」
「うむ」
 山内は蒲生にその通りだと答えた。
「わしもそう思う」
「殿のお傍にも人がいますし」
 毛利や服部がというのだ。
「ですから」
「万全じゃな」
「あ奴についても。しかし」
「しかし。どうしたのじゃ」
「いえ、それがしもあ奴は裏切ると思っていますが」
 蒲生にしてもだ、彼もまた松永は何時か必ず裏切り織田家に仇を為すと確信している。織田家の他の者達と同じく。
「中々裏切りませぬな」
「左様であるな」
「妙なことに」
「このままとは思えませぬが」
「あの裏切りの輩がのう」
「これまで動かなかったことは」
 つまり裏切らなかったことはというのだ。
「驚きですな」
「全くじゃ、どういうつもりか」
「わかりませぬな」
 蒲生だけでなく織田家の殆どの者が松永が中々裏切らないことに違和感も感じだしていた、だがその中で彼等は大返しにかかった。西から東へのそれに。


第十八話   完


                    2018・9・15
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