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永遠の謎
393部分:第二十五話 花咲く命その九

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第二十五話 花咲く命その九

 晴れてはいない。暗い面持ちでだ。こう言うのだった。
「しかし」
「しかしですか」
「陛下にとってはですか」
「それは認められない」
「そうですか」
「何故ミュンヘンでないのか」
 王は苦い顔になっていた。
「この町に。やはり」
「やはり?」
「やはりといいますと」
「この町は一度彼を追い出しました」
 そのことがあってだというのだ。
「だからなのですね」
「そのこともあってですか」
「あの方はバイロイトにされたのですか」
「あの町に」
「間違いです」
 間違いだとだ。また言う王だった。
「バイエルンのこの町でないと駄目なのです」
「この町を芸術の中心にする為に」
「その為に」
「そうだというのに」
 王の顔に。さらに苦さが宿る。
「何故彼は。肝心の彼は」
「ミュンヘンを離れあの町に行こうとされていますね」
「バイロイトに」
「それではミュンヘンにいても」
 王はまた話す。
「意味がないものですが
「いえ、陛下それは」
「それはです」
「御言葉にされぬ方が」
「そうですね。ですが」
 それでもだとだ。王は話さずにはいられなかった。
「ワーグナーはまさか」
「まさか」
「まさかといいますと」
「私から」
 離れるのではないかとさえ思ったのだった。そう思ったのだった。
 考えは暗い世界に入っていく。そこから逃れらなくなってきていた。そこにだった。
 ローエングリンでのこともだ。王の心に浮かび上がってだった。
「私は。常に」
「常に」
「常にといいますと」
「彼と共にいたいだけなのですが」
 そうだというのだった。
「しかし彼は」
「それでもですね」
「バイロイトを選ばれた」
「そうだと」
「裏切り」
 無意識のうちにだ。この言葉が出た。
「まさか」
「ですからそうした御考えはです」
「思われぬ方が」
「ですね。今は」
 何とかその暗い考えを落とそうとしてだ。王は振り払った。しかしであった。
 暗いものが増していくのを止められずだ。その中で。
 ゾフィーとも会う。するとだった。
 彼女は追うのその暗いものを察して。そして言うのだった。
「あの」
「はい、何でしょうか」
「何かあったのですか?」
 王の顔にあるそれを見ての言葉だ。
「若しや」
「いえ、何も」
「そうですか。そうだといいのですが」
「フロイラインが心配されることではありません」 
 王はこうゾフィーに返した。

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