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3章 穏やかな日々
26話 揺らぎ
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怒っている。

「前にツカサ君、私に言ったよね?ちゃんと言葉にしなきゃ伝わらないことがあるって。これから話し合わなきゃいけないこと、たくさんあるなって。そういったんなら、ツカサ君もちゃんと思ってること言ってよ。伝えてくれなきゃ伝わらないよ」

 リアはまっすぐツカサを見ていたようだったが、ツカサはリアの瞳を見れないでいた。アスナにあの日言ったことは、本心だった。それは隠しようもない。だが…このことを、リアに話すつもりはなかった。なぜなら…あまり、よくない話だから。

 だが、ここで言わないとリアは納得しないだろう。

 ツカサは、マグカップを割れるほど握りしめた。


「リアも俺も…あまりに、不確かな存在だ。リアはともかく、俺は…分かってるだろ?」

 ツカサは、そういって、右手で左胸をたたいて見せる。リアは顔を曇らせて、わずかに頷いた。

「だから…もし、俺がリアの重荷にあるようなことがあったら…俺は、一人になることを選ぶと思う」
「っ…!」

 リアはうつむいたまま、マグカップを握りしめているツカサの服の袖をつかんだ。その力は、どんどん強くなっていく。

「それ…本気で言ってるの?」
「っ…ああ…」
「私は…どんなツカサ君でも、重荷だなんて思わないよ…っ。なのになんで…っ!?」

 潤んだ灰茶色の瞳。それが、あまりにも痛すぎて、ツカサは眼をそらすしかなかった。


「リアも…あの時、死のうとしたじゃないか」
「だって、あれは、私はツカサ君を…殺そうとした…っ!」
「俺にとっても、それぐらい、リアに迷惑をかけることは、ウェイトが重いんだ…!リアに迷惑をかけるぐらいなら、死んだほうがましなんだ…っ!」

 血を吐くような思いだった。リアが唇をかみしめて、痛みにこらえるようにうつむく姿を見ると、ツカサの心臓は、張り裂けそうなほど、ずきずきと痛んだ。リアにこんな顔をさせるだなんて最低だ。それこそ、死んだほうがましだった。


 だが、同時に、どんなことがあっても、リアと一緒にいたいと叫ぶ心もいた。だが、ツカサは無理やりその感情を力ずくで抑え込んだ。

 そんなことを欠陥品の自分が思ってはいけない。



「ごめん…」

 一言、そういうのが精一杯だった。


 ツカサの袖をつかんでいたリアの手は、ゆっくりと力が抜けていき、やがて、完全に放した。


「…そっか…」


 リアは相変わらずうつむいたまま小さく言うと、大きな音を立てて立ち上がった。


「ちょっと、外出てくるね」

 足早に、リアの姿は玄関の奥に消えていく。しばらく家の中は、まったくの無音に包まれていた。







 やがて、ひとつついた自分のため息が妙に大きく聞こえる
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