386部分:第二十五話 花咲く命その二
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第二十五話 花咲く命その二
「今度の舞台が楽しみです」
「では我等も」
「御供します」
こうしてだ。王は歌劇場に向かうのだった。歌劇場にはワーグナーが実際にいた。そこで歌手やオーケストラの指導をしていた。
その彼を見てだ。王はすぐに彼のところに来てだ。笑顔で挨拶をした。
「どういった感じでしょうか」
「これは陛下」
ワーグナーは彼の挨拶を受けるとすぐに姿勢を正して応えた。
「ようこそこちらに」
「堅苦しいことは抜きで。それでなのですが」
「今度の舞台のことですね」
「そうです。どうでしょうか」
「今回は順調です」
ワーグナーにしてはだ。満足のいくものだというのだ。
「いい舞台になるでしょう」
「そうですか。それは何よりです」
「特にタイトルロールがです」
ここではローエングリンを歌うだ。その歌手の話にもなる。
「いい歌手が来てくれました」
「あのフォン=カルロスフェルト以上の」
「匹敵するでしょう」
そこまでだとだ。他ならぬワーグナーが太鼓判を押すのだ。王もそれを聞いてまずは期待した。彼がそこまで言うのならというのだ。
その彼の言葉を聞いてだ。舞台を観る。そこには。
白銀の騎士がいて歌っていた。それを観てだ。
王は眉を顰めさせてだ。そのうえでワーグナーに問うた。
「彼ですか」
「はい、彼です」
ワーグナーは王の顔を見上げ会心の笑みで応える。
「彼ならばです」
「そうなのですか」
そう言われてもだ。王は。
その顰めさせた眉でだ。彼に言うのだった。
「他にはいないのでしょうか」
「今回は望む限りの歌手だと思いますが」
「私は。今回は」
王のお気に入りの歌手の名前を出す。すると今度はワーグナーがだった。
眉を顰めさせてだ。こう王に返すのだった。
「彼は駄目でしょう」
「駄目だと」
「やはりローエングリンは彼です」
ワーグナーも舞台を観る。やはりその顔は会心の顔である。
「ですから今回は」
「いえ、ここは」
だが、だ。王も退かない。
「あの歌手です」
「今の歌手ではなく」
「そう思うのですが」
「私は違う考えです」
あくまでだとだ。ワーグナーも退かない。
「今回は」
「どうしてもだというのですか?」
「私はこの作品について何もかも知っています」
他ならぬだ。この作品の全てを創り上げたからだ。
「ですから」
「そう言えますか」
「ですからここはお任せ下さい」
ワーグナーはまた王に言う。
「あの歌手で間違いありません」
「ですが」
王も同じだった。王とワーグナーははじめて意見の食い違いを見せた。
結局ここでは話は平行線だった。王はその顔をかえって曇らせて王宮に戻ることになってしまった。そしてその王のと
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