385部分:第二十五話 花咲く命その一
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第二十五話 花咲く命その一
第二十五話 花咲く命
王の婚礼の日が延期された。そのことに妙に思わない者はいなかった。
宮廷においてもだ。多くの者がいぶかしんでいた。
そしてだ。王にこう言う者達もいた。
「やはり延期は」
「望ましくありません」
「これではです」
「各国にも妙に思われます」
「わかっています」
王の返答は憂いに満ちたものだった。
「ですが」
「それでもだというのですか」
「どうしてもだと」
「心が」
また憂いに満ちていた。そうした言葉だった。
「どうしても」
「不安なのはわかります」
周りもだ。それはわかるという。彼等は王が所謂マリッジブルーにかかっていると思ったのだ。繊細な王ならば尚更であるのだ。
「ですがそれでもです」
「その日が来られれば幸福が訪れます」
「必ずです」
そうだとだ。周りは王に話す。
「ですから陛下、今はです」
「婚礼の日を再びです」
「延期されぬよう」
「その日を」
「それが正しいのですね」
王は応えた。しかしであった。
「やはり」
「おわかりでしたらです」
「ここは」
「そうですね」
あまりだ。気力の感じられない返答だった。
そしてその返答をする王の顔もだった。
何処か元気がなくだ。暗い。あの憂いのある顔だ。
その顔でだ。周囲にこう話すのだった。
「では。そうさせてもらいます」
「是非です」
「今度こそはです」
延期をしないようにだ。周囲もくれぐれという感じであった。
彼等にとってみても切実な話である。主の婚礼のことだから。
だがその主はだ。今度はこんなことを言うのだった。
「それではです」
「はい、次のお話ですね」
「何でしょうか」
「歌劇場に行きたいのですが」
こう周囲に言うのである。
「あちらに」
「それでは」
「はい、ワーグナーです」
結婚の話からだ。彼のことを話すのだった。
「彼のところに。今は歌劇場におられますね」
「はい、確かです」
「あの方は今そちらにおられます」
「そしてローエングリンの稽古に立ち会っておられます」
「いつも通りですね」
それはだ。ワーグナーにとってはまさにそうだった。彼は芸術のことに関しては完璧主義者でだ。稽古にも常に立ち会う男なのだ。
そしてその指導も厳しい。そういう男なのだ。
その彼が歌劇場にいると聞いてだ。王は表情を明るくさせて。
「では今からそちらに」
「ではですね」
「歌劇場に」
「ローエングリンなら尚よしです」
王は微笑みその歌劇に対して喜びを見せた。
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