88話:演奏会
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め、しばらく貴賓席でゆっくりしていて欲しいとのことだったが、むしろ余韻に浸れる時間があるのが幸いな状況だった。おそらく一緒にご挨拶に回られるのだろう。
「少し席を外すわね。しばらくゆっくりしていて」
と言い残して、マグダレーナ嬢が席を外された。あの時と同様、ヒルデガルド嬢もうっとりした様子だ。彼女は俺同様、あまり芸術には関心が無かったはずだが、こんな魔法が世の中に存在するなら、もう少し早く芸術に親しんでいても良かったと思う。
「ミューゼル卿は私と同じでこちらの方面には関心をお持ちでなかったので心配しましたが、どうやらお気に召されたようで安心いたしました」
「ヒルデガルド嬢、おっしゃる通り今までは関心が無かったが、詳しくはわからないがまるで魔法にかかったようだ。変な充足感に包まれてしばらくはこの余韻に浸っていたい気分だ。こんな経験は初めてだ」
キルヒアイスに視線を向けると同意するようにうなずいた。
「人生で初めての演奏会がフレデリック様の演奏だったことは、他の方々にとっては幸運なことに思うかも知れませんが、私たちにとっては不運かもしれません」
何を言うのかといぶかしく思ったが、フレデリック殿の演奏を聴いてから、同じような充足感を得られるのではないかと、それなりに高名な奏者の演奏会に参加してみたものの、残念ながらそこまでの演奏ではなかったらしい。
「むしろ、それは帝国にとっては幸いなことかもしれませんよ?このような魔法を全ての奏者が使えるようなことになれば、臣民は演奏を聴くことに夢中になって、何も手につかなくなりましょう」
「確かにそうですわね。毎日聴けたらと思う日もありましたが、確かにすべきことがおろそかになりそうです」
しばらく余韻に浸っていたが、まだ時間があるだろう。どうしたものかと思っていると、キルヒアイスが備え付けられたティーセットでお茶を入れてくれた。
「ありがとうございます。やっとグリューネワルト伯爵夫人がお話になられる大尉のお茶が飲めました。夫人から聞いていた通り、手つきがリューデリッツ伯にそっくりで驚きました」
キルヒアイスは恐縮する様子で『光栄に存じます』と返していた。今でもたまに振る舞って下さるが、同じように入れても何かが違う。マリーンドルフ伯との関係を思えば、ヒルデガルド嬢も過去に飲んだ事があるはずだ。手つきはそっくりでも、味は何かが違う。その違いも分かったからこそ手つきを褒めたのだろう。だが不思議と悪い気はしなかった」
しばらく無言で、紅茶の香りと演奏の余韻を楽しむ。観客席に目を向けると、やっと余韻から立ち直り、少しづつ観客たちが劇場の出口へ向かい始めていたが、まだまだ時間はかかりそうだ。
「そう言えばミューゼル卿、絵画の方はもうご覧になられましたか?開
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