86話:特権
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戦争が150年以上続いていれば、軍人の子弟が孤児になるなど普通の事になる。友達にもそういう環境の子がいたので自分の番が来たと思っただけだったが、そこで父方の祖母が存命であることを初めて知った。
祖母は事情を詳しくは語ってくれなかったが、子供なりに察した所では、僕の母が帝国からの亡命者の娘であったことと、ミンツ家が『長征一万光年』に参加していた由緒正しい家柄であった為、祖母はこの結婚に反対していたようだ。父は『家柄』よりも母を選び、事実上の絶縁状態だったらしい。僕の事も孫というより『父を奪った女の子供』と認識していた。祖母が亡くなった時、悲しさより、ホッとする気持ちが強かったが、僕が薄情なわけではないと思う。
「お!ミンツ君 おはよう!」
「先生、おはようございます」
通学路の途中で、算数担当の先生に挨拶をかけられる。祖母は僕に挨拶をする事も、挨拶を返すことも無かった。祖母が死んだことで福祉局にお世話になる事になったが、一時預かりの施設に移って数日、軍服に身を包んだヤン大佐とキャゼルヌ准将が僕を訪ねてこられた。
「やあミンツ君。私はキャゼルヌ准将、こっちはヤン大佐だ。私たちは君の御父上といささか御縁があってね。父上からは聞いていないかもしれないが、お茶を振る舞って頂いた仲なんだ。少し話をさせてもらえるかな?」
そして、詳しくは分からなかったが、『トラバース法』という法律があり、孤児を高級軍人の下で養育する決まりがあるとのことだった。
「御父上には美味しい紅茶を振る舞ってもらった縁がある。もし嫌でなければ私の家で養育させてもらいたいんだ。もっとも私は家事は苦手だからそっちは期待しないで欲しいんだが......」
頭を掻きながらヤン大佐は僕に養子になる話をしてくれた。父と二人暮らしの時から家事は得意だったし、なにより控えめな父が振る舞った紅茶の縁と言うのもなんとなく嬉しかった。もちろんその場で『こちらこそよろしくお願いします』と応えていた。大佐の家事能力は控えめに言っても『絶無』だったけど、それも良かったのだと思う。僕が家事をこなすことで、大佐のお役に立っている。ここでお世話になっても大丈夫だと実感できるからだ。毎朝大佐を起こすのも、ひそかな楽しみだったりもする。
「おお!ミンツ君、おはよう。週末の練習試合はしっかり頼むぞ!」
「はい!監督。今日もご指導をよろしくお願いします!」
気づいたら校門に差し掛かっていた。フライングボール部の監督を兼ねている校長先生が挨拶してくれる。監督によると、僕はかなり筋が良いらしい。フライングボールも、大佐にお世話になってから始めたスポーツだ。祖母は僕の事をなにかと縛ろうとして、課外活動をする事を了承してくれなかった。まずは授業に集中しよう。成績不振でヤン大佐が学校に呼び
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