382部分:第二十四話 私の誠意その二十
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第二十四話 私の誠意その二十
それは何故かというとだ。バイエルン王がワーグナーを全面的に援助しているからだ。王なくしてワーグナーは存在し得ないと言ってもいい。
だからこそ産婆だとだ。皇后も言うのだ。
「今その赤子をその手に抱くことをです」
「それを望まれている」
「左様ですか」
「そうです。あの方はあの作品を最初に抱かれる方です」
そうだというのである。
「指輪をです」
「だからこそ焦っておられるのですか」
「指輪の完成を」
「しかしワーグナー氏はです」
ワーグナーは完璧主義だ。その為作品の完成には時間をかけている。その完璧主義ぶりはベートーベンに匹敵するまでだ。
そのワーグナーの作品の完成は遅い。だが王は。
「待ちきれなくなろうとしているのです」
「しかしあの方が仰れば」
「作品を上演されよと言われれば」
「四部ありますし」
「それでは」
「そう。既に完成している作品は」
それはどうなのかというのだ。あの作品はだ。
「上演しようと思えばできます」
「あの方はですね」
「それができますね」
「できること、それが望んでいることなら」
それが手にしているのならだ。どうかというのだ。
「人は必ずするものです」
「ではバイエルン王もですか」
「そうされると」
「そうだというのですね」
「できることをしない。このことに耐えることは辛いことです」
欲に耐える、それが非常に困難だというのだ。
それを話してだ。王のことを考えるのだった。
「あの方はそれに耐えられなくなるでしょう」
「では完成している作品をですか」
「上演されますか」
「あの方の御力で」
「それができるのですから」
やはりすると。皇后は見ていた。王という人がどうした人なのかを理解しているからこそ。そのするであろうことが読めているのだ。
だが読めているからこそだ。暗い顔で話すのだった。
「しかしそれをすればです」
「ワーグナー氏はどう思われるでしょうか」
「果たして」
「あの方は上演は完成されてからと考えておられます」
この辺りがワーグナーらしかった。その完璧主義の彼らしいのだ。
「だからです」
「ではあの方が上演されると不快に思われますか」
「それもかなり」
「はい、思われます」
実際にそうだというのである。
「そして御二人は衝突されるでしょう」
「そうなりますか」
「そして傷つくのは」
図太いまでに強かなワーグナーの筈がなかった。何しろどれだけ借金を重ねても踏み倒そうとし多くの女性に平然と、それこそ恩人や弟子の妻を篭絡したりする様な人間だ。そうしたことで傷つく筈もなかった。
だが王はだ。どうかというとだ。
「あまりにも繊細だからこそ」
「では。その繊細さ故に」
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