小木曽雪菜という少女
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私は彼の端正な顔を眺めながら食事を進める。
「新生軽音楽同好会ィ?」
「うん、北原君に誘われて入ってみることにしたの」
「まァ、雪菜さんがイイならイイんじゃねーのォ?」
彼は私の家の食卓で黙々と夜食を食べている。
彼の隣に座る私は彼に話を振り、彼は適当な間隔で相槌を打ち、口を動かす。
「それよりも鈴科君、聞いたわよ。また、全国模試で1位だったんだってね」
「流石です、鈴科さん」
「イエイエ、あれくらい余裕ですよ。日々の勉学の積み重ねに他なりません」
本当にそうなのだろうか。
私が知る限り彼が熱心に勉学に励む姿は見たことがない。
やはり彼は天才と呼ばれる部類の人間なのだろうか。
いや、それすらも霞んで見える。
私も学園内では上位の成績を収めているが、彼は毎回全科目で満点だ。
正にレベルが違う。
「勉学は問題ないようだな、鈴科君」
「エエ、お陰様で順調ですゥ」
彼は家族と会話に花を咲かせている。
それにしてもこの差は何だろうか。
自分には何か態度が素っ気ない気がする。
彼の誰に対しても平等な性格は好きだが、もう少し自分を贔屓してくれてもいいではないかと思う。
本心を告げることが出来るわけもなく、私が飲み物に気泡を吹き込んでいると……
『風紀委員ですの!』
思わず咳き込んでしまった。
「何だ、今の声は?」
「あァ、今のは俺の着メロですねェ」
「俺の聞き間違いじゃなければ今の着メロは姉貴の声に聞こえたんが……」
「はは、何を言っているのかな、皆……」
家族全員から生温かい視線が突き刺さる。
私は頬を染め、俯きながらも元凶である百合子君を睨み付けることしか出来ない。
「やっぱり缶コーヒーは最高だぜェ……」
だが、本人は素知らぬふりをするばかり
彼のどこまでも一方通行な様態度に私は溜息しか出てこなかった。
この混沌と化した雰囲気を壊すにはあれしかない!
「……ねえ、百合子君。良かったら、この後私の部屋でお話ししない?」
手を膝の上でせわしなく動かし、頬を赤く染めながら上目遣いで隣に座る彼を見上げる。
弟が、”うわー、出た。姉貴の十八番”と言っているが、そんなことはどうでもいい。
問題は彼がこの後、私の部屋に来てくれるかどうかだ。
「鈴科君なら貴方の部屋に先に行ったわよ」
「”眠ィ”って言っていたぜ、姉貴」
「……」
しかし、肝心の彼は既に食卓から離れ、この場にはいない。
年頃の男性を速攻で陥落させる計算された私の"上目遣い"が華麗にスルーされた。
「ご馳走さま。私も部屋に戻るね」
百合子君……
少しは女の子の気持ちを理解してよぉ!
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