第十一話 預言者現る!
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艦隊司令官ヴァルテンベルク大将は味方殺しを不可抗力だと戦闘詳報に書いて統帥本部に提出した」
「そのように聞いております」
「事実じゃない」
「……まさかと思いますが……」
顔色が良くないな、少佐。
「そのまさかだ。軍議の席でヴァレンシュタイン中将、当時は中尉だったが彼が反乱軍が並行追撃作戦を行う可能性があると提起した。彼は当時兵站統括部の所属でイゼルローンには補給状況の視察で来ていた。もっとも補給に詳しい士官として参加を許されたんだ」
「……」
益々顔色が悪くなった。
「戦後、エーリッヒも戦闘詳報を兵站統括部に提出した。そこには補給状況に対する所見と軍議の席で並行追撃作戦を行う可能性を指摘したにも拘らず無視された事、今後のイゼルローン要塞防衛に関しては並行追撃作戦の事を常に考慮する必要があると記述したんだ。ハードウェア、ソフトウェアの観点から防ぐ手段の検討が必要であるとね。つまり要塞司令官、駐留艦隊司令官の兼任だな」
「その、戦闘詳報は……」
声が掠れている。
「兵站統括部から統帥本部へと提出された。そして握り潰された。幻の戦闘詳報だ」
「……」
「統帥本部はイゼルローンからの報告書を基に味方殺しは已むを得ない物と判断し戦闘詳報を公表したばかりだった。エーリッヒの戦闘詳報を公表すればクライスト、ヴァルテンベルク両大将が嘘を吐いた事、統帥本部はそれにまんまと騙された事が明るみになる」
「……」
「その直後、クライスト、ヴァルテンベルク両大将はオーディンに呼び戻された。それ以後は軍事参議官として飼い殺しだ。そしてエーリッヒは大尉に昇進して第三五九遊撃部隊へと配属された。あの悪名高いカイザーリング艦隊だ」
「では……」
少佐が絶句している。顔面蒼白だ。
「そう、彼はこの部屋に来た。卿が座っている椅子にエーリッヒも座ったんだ、その椅子にね」
少佐が居心地が悪そうに坐りなおした。
「そして第三五九遊撃部隊がサイオキシン麻薬の売買に絡んでいる可能性があると指摘した」
「……」
「似ていると思わないか?」
「似ているとは?」
眼が飛び出そうだぞ、少佐。
「第七次イゼルローン要塞防衛戦だ。エーリッヒは反乱軍の作戦を予測した」
「……馬鹿な……」
「公表されないレポートには予測、いや予言が記されているのかもしれない。帝国にとって極めて不都合な予言がね」
少佐が呻き声を上げた。頬を引き攣らせている。預言者は歓迎されない、帝国軍三長官がレポートを重視しつつも喜ばないのは其処に記された内容が帝国にとって極めて危険な内容だからだろう。或いは帝国の滅亡でも記したのか……。
「そろそろ帰った方が良いだろう。話を作るには十分な材料が揃った筈だ」
「……話せると思いますか?」
そんな恨めしそうな顔をするな。
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