37部分:第三話 甘美な奇蹟その二
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第三話 甘美な奇蹟その二
「そう、夢です」
「夢ですか」
「現実にはないもの。それをこの世に現そうとするとです」
「そこに何かがありますか」
「どうなるかはわかりません。ただ」
「ただ?」
「それが貴方の運命を歪にするものの一つにならなければいいのですが」
我が子の顔を見てだった。その絵画の如く整った顔をだ。
「貴方は只でさえ夢を追い求める方ですから」
「夢を」
「そう、夢をです」
そうだというのであった。
「神話に憧れ、ワーグナーに憧れ」
「ワーグナーは私にとっては」
「そうですね。全てになろうとしていますね」
「母上も聴かれましたね」
母后に問うた。ワーグナーのことを。
「あれは。一度聴けばです」
「ワーグナーは確かに素晴しいです」
母后もそのことは認めた。
「その音楽は斬新であります。ただ」
「ただ?」
「あれは麻薬です」
「麻薬ですか」
「そう、麻薬です」
まさにそれだというのだ。ワーグナーは。
「心の奥に染み入りそして捉えてしまう」
「それこそがワーグナーの魅力です」
「ですがそれが問題なのです」
「問題だと」
「そうです。特に貴方はそうなっています」
我が子のあまりものワーグナーへの耽溺が気になっていたのだ。彼は常にワーグナーの音楽を聴きその書を読んでいる。そしてなのだった。
さらにだった。近頃の彼は。
「あの服は何ですか」
「あの服とは」
「白銀の服です。他に緑の服も持っていますね」
「ローエングリンとタンホイザーですか」
「貴方は。何になるつもりですか」
「騎士に」
母后にはっきりと答えたのだった。
「それに」
「騎士団に入ったからですか」
「そうですが」
「そのことはいいのです」
またこう話すのだった。それはいいとだ。
「ですが。貴方は度が過ぎます。服まで仕立てるとは」
「遊びですが」
「そうは見えません」
「全てになっていると」
「王になれば」
この言葉は最早予言ですらなくなっていた。確かになっている未来だった。母后は我が子にその未来をも語ったのであった。
「貴方は今度は何になるつもりですか」
「それは」
「ハインリヒ王ですか」
ローエングリンに出るドイツ王だ。王となる我が子とその王がどうしても心の中で重ね合わさってだ。こう言わざるを得なかったのだ。
「今度はそれになられますか」
「王は王です」
これは言うのだった。
「ですが」
「ですが?」
「私はやはり。あの騎士にこそ」
「ローエングリンにこそ」
「憧れます。どうしても」
そうだというのだった。
「それはいけませんか」
「度が過ぎなければ。それが貴方の心を閉ざさなければ」
「閉ざすと。ワーグナーが私の心を」
「そうなっ
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