365部分:第二十四話 私の誠意その三
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第二十四話 私の誠意その三
「それでいいですね」
「いい。ではだ」
「ですが陛下」
王が飲むといったところでだ。また言うホルンシュタインだった。
「今から」
「そうさせてもらう。ところでだ」
王はワインを飲むことにした。そこで話を変えてきた。
ホルンシュタインに対してだ。あらためて問うたのである。
「この前だが」
「この前とは?」
「卿は何処に行っていたのだ?」
こう彼に問うのである。
「暫くバイエルンにいなかったが」
「旅行と言えば信じて頂けますか」
思わせぶりな笑みで言うホルンシュタインだった。
「そうして頂けるでしょうか」
「どうだろうか」
「おや、そう仰いますか」
「東の方に行っていたのだな」
王は無表情で彼に告げた。
「そうだな」
「東ですか」
「チューリンゲンと言っておこうか」
ドイツ東部の地だ。ワーグナーの歌劇タンホイザーの舞台でもある。チューリンゲンの城ワルトブルグにおいて歌合戦が行われるのだ。
その地名を出してだ。王はホルンシュタインに問うのである。
「そこだろうか」
「ではそこにさせてもらいます」
「別に構わない」
それでいいとだ。王は言った。
「卿が東に行くのはだ」
「宜しいのでしょうか」
「時代の流れは変えられない」
「そうですね。時代の流れは」
「そうだ。動いているのだ」
王は表情のない顔でだ。彼にこのことも話す。
「それを止めることは人にはできない」
「その通りです。それは誰にもできません」
「卿はそれ故にだな」
「旅をしました」
あくまでそういうことにするホルンシュタインだった。
「そしてこれからも」
「旅をするのだな」
「そうさせてもらいます」
「ならいい」
またこう言う王だった。
「私も同感だからな」
「おや、そう仰るのですか」
「そうだが」
ホルンシュタインが注ぎ込んだ美酒を手にしながらだ。王は話す。
そうしてそのワインを一口飲んでからだ。王はまた話した。
「私とて。見えるのだ」
「そのことが見えることが素晴しいかと」
「そうだろうか」
「世の中にはそれが見えない者が多いですから」
それでだというのだ。
「時代の流れを」
「それを読めない者が多いか」
「そう思います。このワインも」
ホルンシュタインもそのワインを手にしている。そのうえで王と向かい合いだ。グラスを右手にしてそれをいとしげに見ながら話すのである。
「ドイツのワインです」
「ではだな」
「ドイツにいる誰もが飲むべきです」
「その為にか」
「また。東に出ます」
その東が何処かはもう言うまでもなかった。
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