82話:帰国
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しかし宜しかったのですか?本日は特段なにかあった日ではなかったように存じますが......」
「あら、あなた達が無事に前線から戻ったのよ?陛下からも労うようにお言葉を頂いたわ。さあ、まずは着替えていらっしゃい。お茶の用意はしてあるからサロンで待っているわ」
アンネローゼ様はそう言い残されてサロンの方へ足を向けられた。警護の兼ね合いでこの別邸はリューデリッツ邸と門は共用だ。宇宙港から地上車で戻ってきたが、厳しい研鑽の日々を過ごしたこの場所が近づくにつれて、妙な安心感を感じた。隣におられたラインハルト様も同じようなお気持ちだったようだ。少しずつ機嫌が良くなられた。
「キルヒアイス、妙なものだな。姉上がおられるからかもしれないが、『帰ってきた』という気持ちが、この屋敷に近づくにつれて強くなった。思い返せばそれなりに大変な日々だったが、あの日々が今の俺たちの支えでもあるのかもしれないな」
もの周りの物を詰めたカバンを片手に。ほぼ一年ぶりにそれぞれの自室へ向かう。見慣れたはずの廊下も、窓から見える庭園もラインハルト様のおっしゃるとおり『帰ってきた』という気持ちを強めてくれる。不思議と笑みがこぼれた。ドアを開けると、屋敷付きのメイドの方が、しっかり手入れしてくれたのだろう。物は少ないが、清潔感のある私の部屋が変わらぬままそこにあった。思わずベットに身を預けたくなるが、アンネローゼ様をお待たせするわけにもいかない。普段着に着替えて、軍服をクローゼットにかけてから階下に向かう。私がドアを閉めたタイミングで、隣の部屋からもドアが閉まる音がした。
「キルヒアイス、あまり姉上をお待たせするわけにもゆかぬからな。さあ、サロンに急ごう」
いつもよりすこし早足のラインハルト様についていく。リューデリッツ伯からもしっかり英気を養うように指示を受けたが、その本人は最前線で動きがあるとのことで、まだお戻りになられていない。アンネローゼ様の事も含め伯のご配慮なのだろうが、後見人が戦地にいる中で、被後見人が休暇に入ってしまっても良いのだろうか?サロンに向かうとアンネローゼ様が、すでにケーキを切り分けてお皿に取り分けておられた。私も急いでお茶をいれる準備をする。ラインハルト様は褒めて下さるが、ときどきリューデリッツ伯やシェーンコップ卿から振る舞って頂く際には、まだまだ研鑽の余地があるのだと、感じる事が出来るようになった。いつかあのお二人をお茶で唸らせるのが個人的な目標だったりもする。
「相変わらず、ジークの入れたお茶は香りが違うわね。私も工夫してはいるのだけど、お客様方に毎回わたしが振る舞う訳にもゆかないし、焦ると逆に良くないらしいし、悩ましい所なのです」
「アンネローゼ様がお上手にお茶を入れられるようになってしまっては、私の役目が減ってしまいます。
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