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永遠の謎
36部分:第三話 甘美な奇蹟その一
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第三話 甘美な奇蹟その一

                 第三話  甘美な奇蹟
 父王の容態がだ。いよいよ危うくなっていた。
 太子はその時馬に乗っていた。森の中を進みそして帰るとだった。
 母にだ。こう言われたのだった。
「お気持ちはもう確かですか」
「母上、まさか」
「はい、その時が来ようとしています」
 真剣な顔で息子に告げるのだった。
「わかりましたね」
「父上が」
 彼はまずそのことを考えた。己のことより父のことをだった。
「それではですね」
「何時何があってもいいように」
 母は我が子にこうも話す。
「これからは常に王宮にいるのです」
「森や山から離れ」
「そうです。いいですね」
「わかりました。これからは城の中にいます」
 ここでは素直にだった。母の言葉に頷くのだった。
「ではまずは」
「まずは?」
「音楽を聴きたいのですが」 
 こう母に対して述べた。
「宜しいでしょうか」
「それはいいですが」
「何かありますか」
「いえ、どの曲にするのですか」
 背の高い我が子を見上げその青い目を見詰めての言葉だった。
「一体どの曲に」
「モーツァルトを」
「ワーグナーではなくですか」
「はい、モーツァルトです」
 それだというのだった。
「それを聴きたいのですが」
「ワーグナーではないのですね」
「ロココを感じたいのです」
 だからだというのであった。
「ですから」
「またフランスなのですね」
「はい、あの部屋で聴きたいです」
 そのフランスの装飾品によって飾られた部屋でだというのだ。彼はいつもその部屋で音楽を聴いているのだ。だからだった。
「ですから」
「はい。ただ」
「ただ?」
「今はあの時とは違います」
「ロココのあの頃とはですね」
「それはわかっていますね」
 我が子を見上げたままの言葉だった。
「そのことは」
「どうでしょうか」
「わかっています」
 太子の返事は聡明なものだった。
「今は十九世紀です。革命を二度も経た」
「しかもそのロココもです」
「終わっています」
 また答える太子だった。
「無論それは私とてです」
「わかっているというのですね」
「母上、ナポレオンを知らない者はいません」
 フランス革命のことだ。それを象徴する人間として出したのだ。
 そしてだ。それだけではなかった。ナポレオンは。
「あの、この国を王にした英雄を」
「そうですね。ヴィッテルスバッハ家を王にしたあの英雄を知らない筈がありませんね」
「そういうことです。ですから私とてです」
 また言う太子だった。
「わかっています」
「それならいいのですが」
「そしてです」
「そして?」
「そのうえで愛しているのです」
 これ
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