暁 〜小説投稿サイト〜
永遠の謎
356部分:第二十三話 ドイツのマイスターその十一
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第二十三話 ドイツのマイスターその十一

「誰からもだ」
「見られているのですね」
「その一挙手一投足までも」
「その全てが」
「今私は欧州で最も注目されている男だ」
 ビスマルクは己のことがわかっていた。彼が何を考え何を言い何をするのか。欧州中がだ。始終見ているのだ。注目されているということだ。
 それを話すのであった。だが、であった。
「しかし王はだ」
「その閣下よりもですか」
「常に見られているのですか」
「そうだ。王は常に見られるものだ」
 首相よりもというのだ。その彼よりもだ。
「私には個人の時間があるが王はそうはいかない」
「王は生活自体が仕事ですね」
 一人がこの現実を話した。
「そうですね」
「そうだ。王とはそうなのだ」
 生きている、そのこと自体が仕事でありそして常に、今のビスマルクよりも遥かに見られる。そうしたものだというのである。それが王だというのだ。
「常に見られるのだ」
「大変な重圧ですね」
 すぐにこう言われた。
「思えば」
「繊細では辛い」
 ビスマルクはここであえてこの言葉を出した。
「そしてあの方はだ」
「あまりにも繊細ですね」
「その御心は」
「繊細で。清らかに過ぎるのだ」
 また唇を噛み締める。眉も顰められる。
「王であられるには。いや」
「いや?」
「いやといいますと」
「この世におられるのにも。繊細であり過ぎる」
 ましてや。王となると、というのである。
「玉座は高い場所にあり広く多く見える」
「この世がですね」
「この世のあらゆるものが」
「それができるには王の資質も必要だが」
「あの方はおありですね」
「王として」
「あられる。だからこそ不幸になられる」
 王としての資質を備え玉座にある。だがそのことは決して幸福とはならない。むしろその二つが合わさり逆になることもあるのだった。
「あの方はその玉座からこの世の醜いものも御覧になられてしまう」
「この世は。人は」
「醜いものも持っている」
「だからこそ」
「あの方が愛されているワーグナー氏にしろだ」
 そのだ。芸術家であった。
「あの人物はいかがわしい。あそこまでいかがわしい者はそうはいない」
「金銭問題に女性問題」
「それに反ユダヤ主義」
「あの御仁には様々な問題があります」
「その一つ一つもかなりのものだ」
 ただだ。問題があるだけではないというのだ。
「山師と言われても仕方のない人物だ」
「バイエルン王はそのことにも気付かれていますね」
「気付かれていない筈がない」
 ビスマルクはその手に持っている様にだ。このことがわかっていた。
「あの方ならばだ」
「しかしそれをあえて言われず」
「そのうえでなのですね」
「しかしその御心は傷つい
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ