355部分:第二十三話 ドイツのマイスターその十
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第二十三話 ドイツのマイスターその十
「そのことがまた悲劇にならなければいいが」
「芸術ですか」
「それ故にですか」
「悲劇にですか」
「あの方と悲劇は離れられないものだ」
ビスマスクはこのこともわかっていたのだった。読めていたのだ。
「どうしてもな」
「悲劇とはですか」
「そうなのですか」
「悲劇は甘美だ」
ビスマルクは悲劇についてだ。こんなことを言った。
「それは例えようもなく甘美なものだ」
「何故甘美なのですか?」
側近の一人がすぐに彼に問うた。
「悲劇は」
「その主人公に己を感情移入する」
「だからですか」
「そうだ。だからだ」
それが為だというのである。
「己のその悲劇に入れてだ」
「そうしてなのですね」
「そうだ。だからこそ甘美なのだ」
そうだというのである。これがビスマルクの悲劇への考えだ。
そしてだ。さらにだった。彼は指摘するのだった。
「そしてあの方はだ」
「バイエルン王御自身に」
「さらにあるのですね」
「王でありそのことに誇りを持っておられる」
そのことを指摘するのだった。
「王でなければならないと思っておられる」
「バイエルン王にはまだ御子がありませんね」
王にとって必要な。それがだというのだ。
「この度御成婚という位ですから」
「その他にも弟君のオットー様は」
「噂によると」
「そうだ。オットー様は王にはなれない」
ビスマルクはここで。唇を噛み締めた。
その噛み締めた唇でだ。彼は無念の声で話した。
「あの方は狂気に取り憑かれておられる」
「だからこそバイエルン王は退位できませんね」
「尚更」
「それもある。あの方に退路はない」
王であり続けなければならない。それがバイエルン王だというのだ。
そしてその王はどうなのか。ビスマルクはさらに話す。
「だが。それでもだ」
「それでもですか」
「あの方は」
「王であることはそれだけで重圧なのだ」
玉座そのものについての話だった。
「玉座の周りには何もない」
「孤独ですね」
「王は常に一人ですね」
「至高の座。言い換えればそれは孤独だ」
そうなると話すのだ。王というものはだ。
「他に並ぶ者がいないのだからな」
「王は孤独。孤高というよりはですか」
「孤独ですか」
「周りに誰もいない」
「しかも常に見られている」
もう一つだ。このことがあるというのだ。
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