不安
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ルカッツは甘くはない。
だが。
「根は深そうだな」
先ほどのカイザーリンクの様子から、ことはそう簡単ではないと理解させられた。
先任の司令官が、どこか副司令官に甘いところがある。
それが増長へとつながったのだろう。
「厄介なことだ。君ならばどうする」
「増長は――おそらくは、副司令官への信頼にあるのかと」
「だろうな。かといって、罪もないのに首にするわけにもいかぬ」
「罪ですか。閣下――バーゼル少将については、黒い噂を聞いた覚えがあります」
「悪い噂?」
メルカッツが立ち止まって、振り返った。
「ええ。それで憲兵が動いているというものです、真偽はわかりませんが。閣下は聞いておりませんか?」
「知らないな。だが、あと一年は司令官の目はないと思っていたが、納得がいった」
いつもならば我先にと手をあげる門閥貴族が、静かなわけである。
黒い噂とやらがある場所に、わざわざ手をあげて立候補する人間もいないはずだ。
メルカッツは苦さを、さらに強くした。
「かといって表立って動くわけにもいかないか」
「噂の段階で調査をすれば、兵たちの信頼はより損なわれましょう」
「だが、それを見過ごしておくわけにもいかない。メッサー中佐――今回異動になった人間を選抜して、対応できるか」
「何名か心当たりがあります」
頷いた様子に、メルカッツは小さく謝罪を言葉にする。
「すまないな。嫌われ役にして」
「元々、この艦隊では外様は嫌われ者です。で、あれば――せいぜい嫌われる行為を楽しむことにします」
唇を曲げて、笑う様子に、メルカッツは笑みを浮かべようとして失敗した。
表情を隠すように頭を下げ、呟いたのはお礼の一言だ。
「感謝する」
+ + +
「少し歩きたい」
黙っていれば、部屋までついてくる副官に声をかけ、カイザーリンクは自室へと向かう通路から外れた。
先ほどメルカッツに言った言葉は、間違いではない。
長年に渡って前線基地としてある施設は、ともすれば一つの街のようだ。
要塞司令官であるカイザーリンクですら、街の大半を理解しているとは言えない。
遠征軍を歓迎する式典までは、数時間ある。
それならば部屋で無駄に時間を過ごすよりも、街を理解したい。
そう思う気持ちは、半分。
残すはメルカッツに問われた言葉だ。
人前で見せる朗らかな顔で、カイザーリンクは街を歩いた。
果たして、黙っていてよいのだろうかと。
おそらくは――いや、カイザーリンクに聞くくらいなのだ。
彼は何も知らないのだろう。
だが、とカイザーリンクは要塞に備えられた公園の一角で立ち止まった。
学校帰りの子供たちが――まるで普通の時の様に平穏に過ごしている。
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