354部分:第二十三話 ドイツのマイスターその九
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第二十三話 ドイツのマイスターその九
そのわかっているものをだ。王はここでも述べるのだった。
「人です」
「人ですか」
「人間なのですか」
「やはりモーツァルトは天才です」
誰もが言うことをだ。王も言う。
「元から素晴しい作品ですが彼はあの作品に奇跡とも言える音楽を加えました」
「その人がですか?」
「そうです。音楽を加えることにより」
それによってだというのだ。
「どの登場人物も非常に魅力的になっています」
「確かに。どの登場人物もですね」
「あの作曲家の作品は」
「そう。モーツァルトに端役なし」
この言葉もよく言われている。モーツァルトは全ての登場人物に等しく素晴しい音楽を与える。だからこそ彼は天才だったのだ。
その才能を見つつだ。王は話すのだった。
「その中でもフィガロはです」
「平民だと思われていたのに貴族だった」
「これは面白いことですね」
「そして幸せを手に入れる」
王はさらに話した。
「素晴しいことです。ただ」
「ただ?」
「ただといいますと」
「その幸せは」
どうなのか。王の顔が曇っていった。
その曇っていく顔では。こう話すのであった。
「この世のものではないのです」
「作中だけのこと」
「そうでしかないというのですね」
「はい、そうです」
まさにそうだというのである。
「しかし音楽によりそれは最高の現実になっています」
「だからこそですか」
「陛下はあの作品を愛されているのですか」
「フィガロの結婚もまた」
「そうです。フィガロも。モーツァルトも」
ひいてはだ。モーツァルト自身もだというのだ。
「私は愛しています」
「では今からですね」
「あの作品の序曲を」
「聴かれますか」
「そうさせてもらいます」
こうした話をしてからだった。王はその音楽を聴くのだった。
そうしながらその日を待っていた。その日はだった。
遂にだ。彼がだ。ミュンヘンに戻って来た。それを聞いてだ。
ビスマルクはだ。こんなことを話した。彼はベルリンにいてこう話すのであった。
「よいことだ」
「バイエルン王にとってですね」
「彼の帰還は」
「そうあるべきなのだ。あの方には彼が必要なのだ」
「リヒャルト=ワーグナー氏がですね」
「必要だというのですね」
「前から仰っていた通り」
「だからこそいいのだ」
それでだと話してだ。ビスマルクは微笑んでいた。
その厳しい顔を僅かに綻ばせてだ。それで話すのだった。
「このままあの方が幸せになればいいがな」
「御婚礼もありますし」
「そうなりますね」
「そうなる。ただ、だ」
どうなのかとだ。ここでビスマルクの話は変わった。
顔を憂いにさせてだ。そのうえでの言葉だった。
「あの
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