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緑の楽園
第六章
第62話 突入(2)
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、見覚えのあるその顔へと押し当てた。
 そして、のけぞって上にあがった相手の右手首へ、今度は剣の柄頭を思いっきり打ちつける。

 拳銃が床を転がる。クロがそれを素早く回収した。

 相手は床にあおむけで倒れたが、すぐに体を起こそうとしてきた。
 そこに、兵士たちよりも身軽で素早いタケルがいち早く飛びかかり、短剣でとどめを刺しにかかっていた。
 まずい――。

「待て! やめろ!」

 力の限りで、叫んだ。



 ***



 ここまで駆け抜けてきたせいだろう。
 不気味なほどいつもどおりの神を除いて、全員の息が切れていた。

 入ってきた入り口は、現在閉じている。
 その金属の扉。防災用のものなのだろうか? 取っ手の形状が、俺の時代のビルの防火扉と一緒だった。
 すでにこちら側から施錠されている。タケルが閉めてくれたようだ。
 いずれ破られるかもしれないが、少しの時間稼ぎにはなるだろう。

「リク、大丈夫か」

 呼吸を整えている俺のところに、クロが寄ってきた。

「俺を突き飛ばしてくれたのはお前か。助かった……ってお前! 鎧に弾の痕が!」
「大丈夫だ。突き抜けてはいない」
「……すまない。扉は慎重に開けるべきだった。うっかりしてた」
「気にするな」

 大失策だ。駆け抜けることに必死で、気が回っていなかった。
 俺の采配ミスで人が死ねる状況だ。
 クロの鎧の弾痕を見て、それを改めて思い知らされる。

「リクさん、なぜ。相手は明らかに戦意があったのに……」

 今度はタケルが寄ってきた。

 ――そうだった。
 前に彼に質問しようと思っていたことがあったのに、それをずっと忘れてしまっていた。
 さっき相手の顔をはっきり見た瞬間、それを思い出したのだ。

 俺を撃ってきた相手――現在は気絶して床に倒れている――は、ミクトラン城に来た地下都市使節団の一人、ヤガミ・シオンという女性だった。

 なぜという彼の疑問には答えず、逆にこちらから質問した。

「タケル。前に聞こうと思ってずっと忘れていたんだが、地下都市にはヤガミという姓の人間はどれくらいいるんだ?」
「えっ? ええと、僕もよくわかりませんが、数人ということはなかったはずです。二桁か三桁はいると思いますが。リクさん、まさかそれを気に――」

 タケルの言葉は途中で手振りで遮って、打ち切らせた。
 両親が誰なのかは不明――以前そう本人から聞いている。
 地下都市は親子の縁など存在せず、人口管理の観点から出産は当局が管理し、子供もすぐに取り上げられて育成までシステム的におこなわれている、と。

 今倒れている彼女。ヤガミ・タケルと同姓だ。
 顔が彼に似ているかどうかについては、俺の観察力で
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