352部分:第二十三話 ドイツのマイスターその七
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第二十三話 ドイツのマイスターその七
「この世にある全てのものがです」
「嫌になられる」
「そうだと」
「この世は憂いに満ちています」
厭世観、トリスタンとイゾルデにも似た、ショーペンハウアーを思わせるものも出した。王にとってはここでもワーグナーなのだ。
「そして醜さもあります」
「醜さも」
「それもまた」
「その世においてです」
どうなのかというのである。
「ワーグナーの清らかなものがあればです」
「それで違いますか」
「この世は清らかになる」
「そう御考えなのですね」
「そのワーグナーの作品の為の劇場」
その劇場もまた、だった。王の夢になっていた。
「それをこのミュンヘンに築きましょう」
「しかしです」
夢を語る王にだ。一人が現実を話した。
「陛下、御成婚のことは」
「そのことですか」
「大公家からは何と仰っていますか?」
「同じです」
変わらない。そうだというのだ。
「この前もお邪魔しましたが」
「確か朝にでしたね」
「あちらを訪問されたのですね」
「そうでしたね」
「はい、そうさせてもらいました」
王はその訪問のことを認めた。事実だからだ。
「朝早く失礼だと思いましたが」
「それでも大公様と奥方様は喜んでおられました」
「陛下が来られて」
「御夫君となられる方が来られて」
「ならいいのですが」
王は相手が喜んでくれているということを聞いてまずは微笑んだ。
そしてその微笑みのままだ。こんなことを言った。
「私はどうも」
「どうも?」
「どうもとは」
「評判が悪いようなので」
巷のだ。心ない声のことをだ。気にしての言葉だ。
「それがあるとです」
「あの、それはです」
「市井の噂話なぞ御気に召されてはいけません」
「ああした言葉は毒なのです」
「心に巣食う毒なのです」
「毒ですか」
王は噂を毒と言われてだ。目に憂いを見せた。
「噂話はそうなのですか」
「そうしたものに過ぎませんから」
「御気に召されたらなりません」
「聞き流されて下さい」
「そこには何もありませんから」
「何もないということはありません」
王は常に何かしらの話題になるものだ。玉座にいればそうしたものも見えるし聞く。それならばだというのだ。やはり憂いの目で話す王だった。
「毒だと仰いましたね」
「はい、確かに」
「そう述べさせてもらいました」
「ではそれがあります」
そのだ。毒があるというのだ。
「人の心を蝕む毒が。それに」
「それに?」
「それにといいますと」
「その毒は残るものです」
こうも話すのだった。その噂話という毒について。
「心に。消えずに残ります」
「ですからそうしたものはです」
「御気に召されてはなりません
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