35部分:第二話 貴き殿堂よその十三
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第二話 貴き殿堂よその十三
「私はそれになるのだ。騎士に」
「騎士にといいますと」
「王になったその時にはだ」
従者に応えずにだ。さらに呟く彼だった。
「その時には」
「その時には?」
「私もそうなりたい」
「ローエングリンにでしょうか」
「あの白鳥の騎士に」
「そうだ、なりたいものだ」
己の望みを今かたりもした。
「是非共な」
「ですがあの騎士は」
「そうです」
周りはその言葉にいぶかしみながら告げるしかできなかった。
「現実にはいません」
「あくまで物語の中です」
「それでどうして」
「それになれますか」
「現実か」
それについてはだった。面白くなさそうに言う彼だった。
「この世の半分はそうであってもだ」
「半分ですか」
「それだけだと」
「昼と夜。半分だな」
今度は二つの世界についてだった。これは太子にとっては実に意味のあるものであった。言葉の調子から誰もが感じられることだった。
「昼が現実だとしたら」
「夜は何ですか」
「それは」
「夜は夢だ」
それだというのであった。
「夢がこの世の半分ではないのか」
「半分ですか」
「その夜が」
「そうだというのですね」
「そうだ、私はそれを見ていたいのだ」
太子は今は夜を見ていた。そのうえでまた回りに話すのだった。
「昼よりも夜だ。夜を愛したい」
「夜といえば」
「そういえばローエングリンでは」
「そうだな」
周りもここで気付いたのだった。そのオペラにおいて夜とはなのだった。
「テルラムントとオルトルートが企んでいたな」
「ワーグナーのオペラでは夜に何かが起こるな」
「確かに」
「夜だ」
またそれだと話すのだった。
「夜、それに森。最後に」
「最後に」
「最後は一体」
「城だ」
この三つを話すのだった。
「その三つを見たいのだ、私は」
「森と城も」
「それも確かワーグナーに」
「よくありますが」
「その全てをもたらしてくれたワーグナー」
まさに全てを話す口ぶりだった。
「彼を救わなければ」
「王になられればすぐになのですか」
「そうされるおつもりですか」
「殿下は」
「そうしたい。いいか」
彼等に顔を向けて問うた。
「私がそうして」
「それ位はいいと思います」
「あの革命騒ぎから割かし時間が経ってますし」
「それなら」
彼等は特に深く考えずにだ。太子に対して答えたのだった。
「構わないかと」
「殿下の思われるままに」
「わかった。それではだ」
周りの言葉を受けてだった。太子は決めた。
その時は来ようとしていた。太子の運命の時が。王になりワーグナーと。その時が来ようとしていたのだ。
第二話 完
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