349部分:第二十三話 ドイツのマイスターその四
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第二十三話 ドイツのマイスターその四
それによりローエングリンはエルザと別れざるを得なかった。そうしてエルザはその悲しみの為に息絶えるこれがローエングリンの結末だ。
ゾフィーはそれを知っている。そして王もだ。その中でだ。
こうだ。王は話した。
「しかし貴女は私のことを御存知ですね」
「はい」
「聞かれることはありませんね」
「そうですね。それでは」
「安心されることです」
こうは言った。しかしだ。
王の顔には表情はない。そして見ているものもだ。
ゾフィーではなかった。彼女はまずそのことに気付いた。
それからだ。気付いたことは。
王が見ているのは。彼であることに気付いた。あくまでなのだった。
そのことに気付きだ。心の中にさらに不安を覚えた。だがその不安を言葉に出すことはできずにだ。余計に暗澹たるものを感じていた。
そうしてだ。王はその彼女に気付くことなくだ。こう言うのだった。
「一緒になりましょう」
「共にですか」
「はい、ローエングリンとエルザは結ばれるのです」
王は二人の関係を明らかに感情移入させていた。
「それが運命ですから」
「運命なのですね」
「共になる運命なのです」
まさにそうだと話してだった。王はだった。
ゾフィーにだ。彼女にもワインを勧めた。
「飲まれますか」
「陛下のワインを」
「神の血を。そして」
「そして?」
「聖杯にあるものを飲まれます」
そうするというのだ。
「そうされますか」
「聖杯ですか」
「聖杯城にありパルジファルが持っている杯です」
物語は。ここでも王の中では現実だった。
そしてその現実を。王にとって現実になっているものをだ。さらに話した。
「それを飲まれますか」
「はい」
一言でだ。ゾフィーは答えた。
「有り難うございます」
「この世には忌まわしいものが非常に多いです」
王の顔に憂いが宿った。
「しかしワインはです」
「それを忘れさせてくれるのですね」
「そうした。素晴しいものです」
そうだというのだった。
「ですから」
「二人で。ですね」
「飲まれましょう」
「わかりました」
こうしてだ。ゾフィーは王の美酒を受けた。王は自ら酒を注ぎ込みそのうえでゾフィーに差し出した。ゾフィーはその杯を受けるのだった。
そこまでは儀式の様だった。ゾフィーはそれを飲んでからだ。
憂いを消そうと思った。しかしそれはだ。消えぬものだった。
王はそのことにも、己のことにも気付かないままにだ。彼を待っていた。
ゾフィーと会った次の日にもだ。宮廷において周りに問うていた。
「間も無くですね」
「ワーグナー氏ですね」
「はい、あの方ならばです」
「間も無く来られます」
「御安心下さい
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