第十話 溜息しか出ない
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しげな表情だ。やはり分かっていない……。
「第三次ティアマト会戦でミュッケンベルガー元帥が倒れた。本来なら指揮を引き継ぐのは次席指揮官のローエングラム伯だった。だが卿の手配りで式を引き継いだのはメックリンガー中将だった。その事で将兵達はローエングラム伯の能力に疑問を持つようになった」
エーリッヒが唖然としたような表情を見せた。
「馬鹿な、あれは総司令部とローエングラム伯の間で指揮権を巡って争いになると思ったからだ。それに戦闘中に突然指揮権を伯に移せば将兵が混乱すると思った。ローエングラム伯の能力を危ぶんでの事じゃない。伯以上の用兵家は帝国には居ないよ」
エーリッヒが断言し顔を顰めた。
「イゼルローンで勝てれば良かったんだがな。残念だが負けた。軍上層部はイゼルローン要塞を守れた事で敗戦を重視していないが将兵達は違う。彼らのローエングラム伯への不信感は強まっている。宇宙艦隊副司令長官には相応しくないと見ているんだ」
「……なんて事だ……」
エーリッヒが首を横に振っている。予想外の事で意気消沈しているらしい。
「もう分かっただろう?」
「分かったよ。私の所為でローエングラム伯は将兵に不信感を持たれている。私を恨むのは当然か」
投げやりな口調だった。
「そうじゃない。いや、そうなんだがそれだけじゃないんだ」
「……未だ他に有ると?」
そんなウンザリした様な顔をするな。言いたくなくなるだろう。だが言わなければ……。
「将兵達は卿が宇宙艦隊に配属される事を望んでいるんだ。それこそローエングラム伯に代わって卿が宇宙艦隊副司令長官になる事をな」
「……」
「ローエングラム伯にとって卿は目障りで邪魔な存在なんだ。帝国軍三長官と密接に繋がり自分を蹴落としかねない存在だと思っている」
エーリッヒが溜息を吐いた。これで何度目だろう。
「私にはそんな野心は無いし能力も無いよ、買い被りも良い所だ」
いかん、また溜息が出た。公平に見て宇宙艦隊副司令長官は務まるだろう。一時は内定された事も有るのだ。むしろ辞退した事の方が信じられない。それは俺だけではないだろう。
「良いか、卿は自分に対する認識が甘過ぎ、いや低過ぎる。卿が自分を如何思うかじゃない、周囲が卿を如何判断するかだ。周囲は卿をローエングラム伯以上に宇宙艦隊副司令長官に相応しい能力を持っていると思っているんだ」
エーリッヒが肩を落としている。遣る瀬無さそうな表情だ。
「ギュンター、私は如何すれば良い? ……退役した方が良いかな?」
「無駄だ。退役願いが受理される事は無い」
「……何かの間違いで……」
「無い、諦めろ」
そんな溜息を吐くなよ、こっちの方が溜息を吐きたい。
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