暁 〜小説投稿サイト〜
銀河英雄伝説〜其処に有る危機編
第十話 溜息しか出ない
[1/5]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


帝国暦487年 9月 1日 オーディン    情報部員A



前を進む地上車が止まった。こちらの地上車も止めた。二人の軍人が前の地上車から降りてきた。一人は監視対象者、もう一人は憲兵隊のギュンター・キスリング大佐である事が確認できた。
「Bより本部、Bより本部」
『こちら本部』
声が硬い。さっきの事を怒っている様だ。
「2015、監視対象者が官舎に着いた。憲兵隊のキスリング大佐も一緒だ」
『了解、そのまま任務を続行せよ』
「了解した」
正直ほっとした。ようやく安心出来る。

『気を抜くなよ、さっきの様な失態は許されない』
「分かっている」
溜息が出た。Bも溜息を吐いている。情報部と憲兵隊が監視対象者を見失うという失態を犯した。本部に帰ったら叱責が待っているだろう。せめてもの慰めは失態は憲兵隊も犯したという事だ、不可抗力だったと言い訳しよう。おそらく憲兵隊も同じ事を言うに違いない。

「A、中将が手を振っているぞ」
確かに振っている。振るのを止めた。諦めたかと思ったがまた振っている。Bと顔を見合わせた。
「B、手を振った方が良さそうだな」
「ああ、そうじゃないとあの人ずっと振っていそうだ」
二人で手を振ると中将が頷くのが見えた。満足しているらしい。その傍でキスリング大佐が頭に手を当てている。気持ちはとっても良く分かる。俺も溜息が出そうだ。

中将と大佐が一緒に官舎に入った。
「良いのかねえ、あんなに無防備で。如何思う?」
「良くはないさ、多分状況が分かっていないんだろう」
「そうだよなあ」
Bが頷いている。監視対象者が監視者に向かって親しげに手を振る。有り得ない事だ。

「なあ、A。俺達の任務は監視兼護衛だよな。どっちが主なんだ? 監視か? 護衛か?」
「知らんよ、ヘルトリング部長だって知らないんじゃないか。この件はシュタインホフ元帥の特命だと聞いた」
「そうだよなあ、そうじゃなきゃ憲兵隊と協力なんて有り得ないよな。ウチの部長、政治力なさそうだもん」
Bが溜息を吐いている。Bの言う事は事実だ。ついでに言えばヘルトリング部長は必ずしもシュタインホフ元帥の信任を得ていない。

監視対象者エーリッヒ・ヴァレンシュタイン中将。閑職である士官学校校長の職にあるがそれを以って彼を侮る様な愚か者は居ない。帝国軍三長官の懐刀と言われ国務尚書リヒテンラーデ侯からも信任を得ていると言われている。今日も並み居る貴族達を押し退けて皇帝陛下から御言葉を賜っているのだ。それを考えれば護衛なのだろうが……。

「ああも無防備だと護衛というより監視かな? 中将を利用しようと近付く人間を確認する」
如何思う? と言う様にBが俺を見た。
「かもしれん、実際にあれが起きた」
「そうだなあ」
Bが頷いている。そ
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ