344部分:第二十二話 その日の訪れその十五
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第二十二話 その日の訪れその十五
そしてだ。その彼の歌劇の上演ではなくなってきていたのだ。
「戦争をするようなものです」
「陛下は戦争はお嫌いですがあれでは」
「常に戦っているのと同じ」
「支出に際限がありません」
「しかもワーグナー氏自身もです」
金がかかるのは彼自身でもあるのだ。
「絹のもの以外見に着けられませんし」
「豪邸に住まれ孔雀や高価な犬に囲まれ」
「しかも見事な馬車に乗られ」
「調度品も贅を尽くしたもの」
「全て国家の予算でそれをする」
「しかもそのことについてです」
ワーグナーの浪費の悪夢がだ。彼等を再び覆っていた。
そしてその悪夢をだ。彼等は今思い出し話すのだった。
「あの方は遠慮されませんし」
「せめて歌劇だけなら納得がいっても」
「ワーグナー氏自身の豪奢な生活」
「しかもそれに加えて専用の歌劇場」
「有り得ません」
それだけの浪費が一人の音楽家によって為される。そのことがだった。
「陛下がそれをお許しになられる」
「あの方はワーグナー氏の虜」
「だからこそそうされる」
「困ったことです」
こう話していくのだった。そうしてだ。
その中でだ。彼等はこのことも話した。
「そのワーグナー氏はこちらに戻る時に頭痛の種を持って来られます」
「我々にとって新たな頭痛の種といいますと」
「それが一体?」
「何でしょうか」
「新しい作品です」
それだというのだ。
「それを持って来るというのです」
「新しい作品ですか」
「それを持って来るのですか」
「ではまたですか」
「費用がかかりますか」
「その通りです」
まさにそうだとだ。話が為されるのだった。
「あの御仁は必ず持って来ます」
「その作品はあの指輪でしょうか」
一人が怪訝な声で言った。
「ワーグナー氏が延々と作っているあの四部作でしょうか」
「いえ、違うようです」
そのことはすぐに否定された。
「指輪はまだ製作中とのことです」
「陛下は完成を待ち望んでおられますが」
「それでもまだですか」
「あの作品は」
「そうです。指輪ではなく」
そのだ。別の作品はというとだ。
「マイスタージンガーです」
「マイスタージンガー。そういえばあの作品も製作していましたね」
「あの作品が遂に完成したのですか」
「そうしてそのうえで、ですか」
「あの作品を持って来る」
「陛下に」
そうなればどうなるか。このことはもう答えが出ていた。
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