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緑の楽園
第六章
第59話 神の加護
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 戻るなりカイルに「兄ちゃんどこ行ってたの?」と声をかけられた。
 俺は「ちょっとレンのところにな」とだけ答えた。

 カイルはジロジロと俺の顔を見てくる。

「いい話が聞けたんだね。顔でわかるよ」
「無駄に鋭いのはやめてくれ……。なんか体の中を直接見られてるみたいで気持ち悪い」
「裸ならけっこう見てるけどね?」
「キモっ」

 またタケルが「仲いいですね」と言ってニコニコしている。
 もう完全にテンプレート化した。

「あ、そうだ。タケル」
「はい」
「ちょっと聞いておきたいことが」
「なんですか?」
「総裁ってどんな人物なんだろう? これからのことを考えると、ある程度イメージを固めておいたほうがよさそうなんだけど」

 タケルは少しだけ視線を宙に浮かせた。

「さきほども言いましたが、僕も一度しか総裁を見たことはありません。しかも仮面をつけていたので、顔もわからなかったりするんですよね」
「ということは、性格とかまではわからない感じ?」
「はい……そうですね。あまり情報がありません。
 小さい頃に、総裁は世界一の叡智を持っている人間だとか、最も真理に近い存在の人間だとか、未来を予知できる人間だとか、永遠の命を持っている人間だとか、そんな感じで教わってはいましたが」

「もしかして。それ、信じていたのか……」
「あ、はい。当時は……。よく考えたらちょっと嘘臭かったですね」
「ちょっとどころじゃないけどな」

 タケルが笑う。俺も笑った。
 洗脳教育とは怖いものだ。
 そのうち、総裁は大便をしないとか、総裁はオナラをしないとかも教育内容に追加されるのかもしれない。

 もっとも、タケル少年は性格が素直だから、騙されやすくても、一度それが解けさえすれば、新環境での順応も早いのかもしれない。まったく濁りのない彼の黒い瞳を見て、あらためてそう思った。
 この少年なら、地下都市の解体後も、この国の国民として活躍できるだろう。

「……? どうしました?」
「ん? ああ、ごめん。なんでもない。目が澄んでるなって思っただけ」
「えっ? あっ? そ、そうでしょうか? ありがとうございます……。まだ他にも聞きたいことがあったりしますか?」
「たぶん、今のところはない。ありがとう」

 たぶんない……と言ってしまってから、少し引っかかるものを感じた。
 タケルにそのうち確認したいと思っていたことがあったような、なかったような。
 なんだっただろうか? まあ思い出したらでいいか。

「兄ちゃんオレの目はー?」
「ハイハイ、キレイキレイ」
「ひどっ。ちゃんと見てないでしょ」

 今さらきちんと見る必要なんてない。そう思う。
 誰が見てもキレイだと感じるだろう。覗き込めば、南の海が
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