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戦国異伝供書
第十七話 大返しの苦労その一
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               第十七話  大返しの苦労
 信長は毛利家との戦を進めるにあたってまずは備前の宇喜多家が降ることを許した。そのうえでだった。
 山中鹿之助と会ったが山中の言葉にすぐに問い返した。
「ではお主はか」
「はい、それがしは国の主はです」
「なりたくないか」
「興味がありませぬ」
「そしてか」
「是非尼子家を再興し」
 そしてというのだ。
「一国の主に」
「そう願うだけか」
「左様であります」
 こう信長に言うのだった。
「ですから」
「わしはお主に万石をと考えておる」
 これまでの、織田家の外での戦ぶりを見ての言葉だ。
「よくやったと思っておる、だからな」
「ではその万石をです」
「尼子家にか」
「差し上げて頂きたいです」
 山中はあくまでこう言うのだった。
「お願いします」
「お主はそれでもよいのか」
「それがしは食える分の禄が、いえそれがなくとも」
 それでもというのだ。
「生きていきます」
「食うや食わずでも戦ってきたと聞いておるが」
「そうしたことも多かったので」
「だからか」
「それも構いませぬ、とかくです」
「尼子家をか」
「お願いします」
 山中はあくまで言う、その言葉に彼の心を見てだった。
 信長も考える顔になってだ、彼にこう答えた。
「わかった、ではな」
「それでは」
「お主は尼子家の家老となれ」
「家老ですか」
「そしてじゃ」
 信長はさらに話した。
「尼子家、必ず万石取に戻そう」
「そして頂けますか」
「出来れば一国の主にな」
「そうして頂けますか」
「このこと約束する」
 確かな顔と声でだ、信長は山中に言い切った。
「必ずな」
「さすれば」
「自身が禄をいらぬという者がおるか」
 それはと言うのだった。
「わしも驚いたわ」
「左様ですか」
「お主がはじめてじゃ」
 山中の様な者はというのだ。
「まことにな、しかしな」
「その心をですか」
「わしは受け取った、ではな」
「その様にして頂きますか」
「安心せよ、そして尼子家を守っていくのじゃ」
「そうさせて頂きます」
「そしてじゃ」
 信長は己の言葉に感激し頭を深々と垂れる山中にこうも言った。
「お主の後ろの者達じゃが」
「この者達ですか」
 山中も頭を上げてその者達の方を振り向いた、そこに確かに彼等がいる。
「尼子十人衆です」
「お主を筆頭としたか」
「左様であります」
「真田十勇士とはまた違う様じゃな」
「真田殿とはとても」
 謙遜する顔と声でだ、山中は答えた。
「及びませぬ」
「そう言うか」
「はい、真田殿は武田殿の下大きなことをされていますが」
「お主はというか」
「何も出来ておりませぬ」 
 だからだという
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