338部分:第二十二話 その日の訪れその九
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第二十二話 その日の訪れその九
「エルザ姫は結ばれなかった」
「あの方もでしょうか」
「そうなるのではないのか」
ワーグナーの心に危惧が宿る。
「そんな気がしてきたのだ」
「考え過ぎではないでしょうか」
コジマは少し考える顔になってからだ。ワーグナー、今では実質的におっとになっている彼に対してだ。こう述べた。彼女はそこまで気付いてはいなかった。
「流石にそれは」
「そうであればいいのだがな」
「確かにあの方は無垢な方です」
コジマはこのことは指摘した。
「まるでパルジファルの様に」
「パルジファルか」
「あの方はそうでもありますね」
「そうだな。パルジファルだな」
ワーグナーもその言葉には頷いた。王の無垢を見てだ。
「あの方はそうでもある」
「王であられますし」
パルジファルが聖杯城の主、王だからだ。それで話すのだった。
「ですから」
「そうだな。そういえばだ」
「そういえば?」
「あの城はこの世の城ではない」
またこの話になった。
「人の立ち寄れぬ清らかな世界にある城だ」
「その城の主であられるのですね」
「この世はあの方がおられるには穢れ過ぎているのか」
「あの方の無垢には」
「私とてだ」
自分のことも話すワーグナーだった。自覚しているのだ。
「穢れている」
「この世にあるものは全て」
「あの方がおられるにはあまりにも穢れている」
穢れていないものはない。この世にはあらゆるものがあるからだ。しかしその穢れこそがだというのだ。王にとってはだというのだ。
「あの方は穢れを嫌われる」
「この世で最もですね」
「それから目を逸らし逃れられようとする」
「逃れられるのでしょうか」
「逃れられはしない」
無理だと。ワーグナーは断言した。
「この世に常にあるものだからだ」
「穢れは」
「それでどうして逃れられるか」
王のことを考えだ。ワーグナーは眉を曇らせる。
そうしてだった。彼は話していく。
「決して逃れられないのだ」
「何があろうともですね」
「あの方はまさにあの城の主なのだ」
聖杯城のだというのだ。
「女性の心を持ちながら」
「女性の」
「パルジファルは男だ」
このことは紛れもない。その者は男だ。
しかしだ。ワーグナーは同時にこうも話した。
「だが愛により先の王アムフォルタスを救う」
「それができるのは」
「女性だ。愛は女性的なものによって救済されるものになるからだ」
「ではあの方は」
「女性だからこそ。あの城の主になれるのだ」
そうした意味でもだというのだ。
「パルジファルにだ」
「女性だからですか」
「そうだ。女性だからだ」
身体は男性でもなのだ。心はだった。
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