337部分:第二十二話 その日の訪れその八
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第二十二話 その日の訪れその八
「歩まれますね」
「それは当然ですが」
王はゾフィーの言葉に無機的に返した。
「決まっているではありませんか」
「そうですね。そのことは」
「私はです」
「貴女は?」
「エルザになることを望んでいます」
王に対して。自分がローエングリンであると思いたい彼に話した。
「ローエングリンの花嫁になりたいです」
「はい、私もです」
王もだ。微笑んで話した。
「ローエングリンになりたいと思っています」
「ローエングリンにですね」
「幼い頃からの憧れでしたから」
ここでもだ。その憧れが話に出た。
「第三幕ですね」
「あの婚礼ですね」
「そうです。まずは前奏曲があり」
第三幕の前奏曲。ローエングリンの婚礼はその華やかな曲からはじまるのだ。
そしてそれからだった。幕が開いてだ。
「婚礼になりますから」
「私達はその婚礼の場に入るのですね」
「二人であの曲を聴きましょう」
婚礼の合唱曲だ。ワーグナーの。
「そうなりましょう」
「はい、それでは」
こうした話をしてだった。彼等はだ。
今は幸せに微笑んでいた。しかしなのだった。
ふとだ。間も無くミュンヘンに戻ろうとしているワーグナーがだ。スイスに口実を設けて来ていたコジマにだ。こんなことを言うのだった。
「私は失敗したか」
「失敗とは」
「ローエングリンのことだ」
こう彼女に話すのだった。ピアノを前にしながら。
「私はあの結末にしたがだ」
「ローエングリンが去る様にですね」
「あえてそうしたのだが。それは失敗だったのだろうか」
ワーグナーにしてはだ。珍しい言葉だった。彼は己の作品については絶対の自信を持っている。だからこそだ。珍しい言葉だった。
「幸せにするべきだっただろうか」
「幸せにですか」
「そうだ。作曲していた時から言われていたが」
ワーグナーの話はそこから遡る。
「あの作品は幸せな結末であるべきだったと」
「批評家の方だけでなく他の方もいわれていましたね」
「そうだ。だが私はだ」
それでもだというのだ。
「あの作品はあえてああした結末にしたのだ」
「悲しい結末に」
「ローエングリンはこの世の者ではない」
何故その結末にしたのか。ここにポイントがあった。
「聖杯城の者だな」
「あの城の主パルジファルの息子ですね」
「そうだ。この世にはいられない者だ」
そこにだ。大きなものがあるのだった。
「それ故にエルザとは幸せに結ばれることはできないのだ」
「それでああした結末にされた」
「あの結末はああなるべきだった」
作品を作ったワーグナーだからこそ言える言葉だった。
「ローエングリンは去りだ」
「そしてエルザ姫は悲しみの中に息絶える」
「
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