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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生
76話:我儘
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「コンコン......」

ノックとともに従卒が入室し、お茶をそれぞれの手元に置くと、退室していった。驚いたことにコーヒーではなく紅茶だ。

「以前シロンにも赴任したことがあってな。それ以来、紅茶派なのだ。少佐はコーヒーの方が良かったかな?」

「いえ、私も実は紅茶派でして、もちろんシロン産のものを愛飲させて頂いています」

お互いカップを口元に運び、香りを楽しみながら紅茶を口に含む。うん、好みの入れ具合だ。シロンに赴任していたと言う事は、本場の入れ方なども修めておられるのだろうか?

「それは嬉しい事じゃ。入隊してからコーヒー尽くしじゃったが、本場の味を知ってから紅茶派に転向した口でな。同好の士を求めておるんじゃが、なかなか啓蒙活動が捗らんのじゃ。たまにはお茶に付き合ってもらえれば助かる」

「美味しいお茶のご相伴に預かれるなら歓迎です。それに司令には実はお話を伺いたかったのです。さすがにマーロヴィア星域までの旅費が経費として認められなかったので断念したのですが......」

「うむ、少佐の経歴には目を通した。だいぶ昔の事を調査したそうじゃな。ローザス提督の軍部葬には儂も参列したかったが、さすがに往復の期間を考えるとな。辞令を統合作戦本部で受け取る際に、墓参りはさせてもらったんじゃ」

「そうでしたか、私は任務がきっかけで提督との知己を得たのですが、もっと早くお会いしたかった方でした。『ローザス提督の回顧録』も愛読書のひとつでしたし、色々とお話を伺いました」

「ローザス提督の訃報には儂も驚いた。730年マフィアは確かに一つの時代の象徴じゃったが、揃って晩年は不遇じゃったな。アッシュビー提督が戦死された第二次ティアマト会戦の時は、儂は軍曹でな、戦艦の砲術下士官として参戦しておったが激戦に次ぐ激戦であっという間に弾を撃ち尽くしてしまってな。次があれば、もう少し配分を考えようと思った記憶があるな」

紅茶派という共通点から、予定外の談笑の時間は予想外に楽しい時間となった。帰還する避難民たちの心境を思えば、必ずしも楽な任務ではないが少なくとも上役とはうまくやれそうだ。ビュコック司令官は貧乏くじとおっしゃったが、アッテンボローが危惧していたドーソン教官と同じ職場になる事に比較したら、恵まれた職場になるだろう。
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