76話:我儘
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言うと、『壮行会の場に相応しい明るい話題ではなかったな』といってこの話題を打ち切った。帝大の経営学部を卒業し、RC社に入社したリューデリッツ伯のご嫡男、アルブレヒト殿も、自分の軍人としての才能に悩んでおられたし、平民が思うほど、貴族社会は幸福に彩られた世界ではない様だ。ここは俺から話を変えよう。
「そういえば、あの件は伯も本気のようだな。ディートハルト殿と仲の良い先輩方も含めて、将来の正規艦隊司令候補には軒並み声をかけたらしいし、見届け人にグリューネワルト伯爵夫人の同席も手配したと聞く。オフレッサー大将にも手合わせを打診したらしいし、伯のお考えはどのあたりにあるのだろうか?諦めさせようとお考えなのか?」
「逆だろうな。士官学校には行かずに任官するからこそ、伯が用意できる一番厳しい環境を用意したのだろう。確かに、このまま士官学校に入学させても、首席は楽にとるだろう。だが今の心持では、彼が同期たちの信望を集められるか?は正直厳しいだろう。むしろ妬まれるだけのような気もする。ならば任官させて、より厳しく鍛えるというご判断なのだろうが......。伯はなにかとミューゼル卿には甘いからな。唯一の救いは、側近候補のキルヒアイスが優秀なわりに謙虚な良識人だという事だろうが......」
伯が後見人となったミューゼル卿は幼年学校で首席を通しているし、その側近候補のキルヒアイスも次席を確保している。俺も参加していたリューデリッツ伯流の英才教育のたまものではあったが、幼年学校の卒業を来年に控え、『士官学校に進まず任官したい』と言い出したことが、事の発端だ。戦術の講師役を引き受けていたから2人が優秀な事は分かっているが、15歳の皇族に連なる者が任官しても、周囲は戸惑うと思うのだが......。
「ミューゼル卿は確かに優秀だが、『我慢すること』だけは苦手だ。だが、優秀だったからこそ、我慢させる状況が無かったとも言える。正規艦隊司令官になるまでは、任地は全て伯の指示に従う事を約束させたらしいし、戦術シミュレーターと白兵戦の手合わせで負けるような事があれば士官学校へ行かせるというニュアンスを含ませて約束されたようだ。実際問題、今の状態で士官学校に入学させても、猫を檻に閉じ込めるような物だ。為にはならん。任官する前に思いっきり鼻っ柱を折っておくつもりなのだろう」
「ならば、戦術シミュレーターは負けるわけにはいかんな。お考え次第では、多少手心を加えたほうが良いのかとも思っていたが......」
「指名されたという事は鼻っ柱を折れという事だ。後始末は伯がしてくれる。『猪突』程ではないが攻勢が大好きだ。それを踏まえれば指名を受ける程の人材なら負ける事は無いだろうな。伯が指揮下の人材が異動する際にわざわざ頼んで回りだしたのも、今からそうしておくことでミューゼル
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