第一章
[2]次話
ダリアの言葉
今現在岩本浩紀は浮ついた気持ちにあった、もう定年間際だがその渋く落ち着いた雰囲気の顔でこう言っていた。
「私は今幸せだよ」
「それはまだどうしてだい?」
「この歳になって恋を知った」
こう友人とバーで飲みながら言うのだった。
「はじめてな」
「待て」
彼の友人である袴田慎吾は彼のロマンスグレーのオールバックと細面を見つつ言った、皺のある顔は落ち着いていて一八〇近い身体はすらりとしている。実に端整である。
「君は既にだ」
「結婚していてだね」
「もう孫もいる」
「そう、二人ね」
「その君が恋を知ったというと」
「わかるね」
「浮気か」
袴田は眉を顰めさせて言った、岩本と違って随分と太った身体で髪の毛も薄くなっている。
「それか」
「そうなるだろうな」
岩本も否定せずに答えた。
「私は今ある人と交際をしている」
「それは誰だ」
「まだ若い人だが」
「若い?」
「年齢は二十歳になったばかりでだ」
それでと言うのだった。
「ある喫茶店の店員でな」
「その人とか」
「交際をしている」
「奥さんもいるのにか」
「勿論妻には内緒だ」
岩本はウイスキーをロックで飲みつつ話した。
「そうしてだ」
「恋愛を楽しんでいるのか」
「そうだ」
まさにと言うのだった。
「勿論君にも言っておきたい」
「奥さんにはだね」
「内緒にして欲しいとな」
「人の秘密を言う趣味はない」
これが彼の返事だった。
「それを言っておくよ」
「それは何よりだ」
「これが犯罪なら別だがな」
「犯罪ではないからいいのだね」
「浮気は犯罪じゃない」
このことは確かに言う袴田だった。
「それは言っておく、しかしな」
「人としてはだね」
「奥さんに悪いぞ」
「悪くてもだ」
それでもと言うのだった。
「私は今だ」
「その人とか」
「恋愛をしているのだよ」
「それで今幸せをか」
「感じている」
「やれやれだ、浮気という恋愛はな」
それこそと言う袴田だった。
「いい結末を迎えない」
「そういったものだね」
「間違っても奥さんにばれたら」
その時はというのだ。
「言わなくてもわかるな」
「覚悟しておけというのだね」
「熟年離婚でもなったら」
袴田はその時のことをあえて言った。
「わかるな」
「一人寂しい老後をだね」
「送る、ずっと研究室にいるつもりか」
岩本の職業はある大学の教授だ、理学博士でありある有名私立大学において教授を務めているのだ。
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