第三章
[8]前話
シャルルは大学生になってもクレージー=ホースについて調べていったが結局彼の姿はわからなかった。それでだ。
父にもだ、こう言った。
「いや、子供の頃からクレージー=ホースの写真とか絵を探しているけれど」
「ないだろ、そんなものは」
「一枚もね」
それこそと言うのだった。
「ないよ」
「ああ、だからあの人はな」
「白人嫌いで」
「白人文化にも触れなかったんだ」
「つまり当時のアメリカの文化にも」
「それで写真もないんだからな」
セインは大学生になっている我が子にこのことを話した、今もそうしたのだ。
「だからあの銅像もああした顔と姿だったのか」
「それは誰にも言えないんだね」
「そうだよ、クレージー=ホースの写真なんてものはな」
「ないんだね」
「それで誰ももうその姿を知らないさ」
写真も絵も残っていない、それでというのだ。
「そうした人なんだよ」
「十九世紀の人でそうした人も珍しいね」
写真が出て来ている時代だというのにとだ、シャルルは思った。
だがここでだ、こう言った彼だった。
「けれど白人嫌いで」
「その文化にも触れなかったんだ」
「だったらそれも当然だね」
「どうしてもクレージー=ホースの姿をイメージしたいならな」
「あの大統領達の顔像の下にあるあの銅像だね」
「あの姿になるだろ」
強いて言うならというのだ。
「実際のクレージー=ホースの姿をイメージしたものかどうかなんてのもわからないことだけれどな」
「結局あの人の姿はわからないままだね」
「もうわかる筈もないことなんだよ」
クレージー=ホースと会った者、見た者がいなくなった今はというのだ。そうなったというのだ。
それでシャルルはまたラシュモア山の方に行った、そしてその像を見て思った。
これが強いて言うのならクレージー=ホースなのだろうとだ。こう思ってそれで納得した。もう誰も彼の姿はわからないのだから。
そうして以後クレージー=ホースの姿を調べることはしなくなった、その像を思うだけで終わる様になったのだった。もうわかり様がないことなので。
クレージー=ホース 完
2018・6・11
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