327部分:第二十一話 これが恐れその十七
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第二十一話 これが恐れその十七
「ただ。あの方は女性よりも騎士殿を御覧になられているのでしょう」
「騎士を」
「それを」
「ワーグナー氏の創られたその世界を御覧になられています」
リラもだ。王と話してこう言うのだった。
「しかし現実の女性はです」
「現実の女性にはですか」
「興味がですか」
「あの方の理想はワーグナー氏の女性なのでしょう」
リラはそう見ていた。しかし王の本質には気付いていなかった。
「例えばエルザ姫です」
「ワーグナー氏の歌劇のあの」
「あのローエングリンのヒロインですか」
「そのヒロインならばですか」
「その方ならばです」
リラはそのエルザについての話をしていく。
「きっと陛下の御心を惹き付けられるでしょうが」
「ではゾフィー様はですか」
「そのエルザ姫ならばですか」
「きっと」
「そう思いはします」
リラの返答はこうしたものだった。
「若しもですが」
「あの方がそのエルザ姫ならばですね」
「そうなるのですね」
「しかしです」
ここでまた言うリラだった。
「果たしてあの方がエルザ姫かどうかは」
「わからない」
「そうだと仰るのですね」
「そうです。むしろ」
どうかというのだった。さらにだ。
「あの方のエルザはです」
「あの方」
「あの方といいますと」
「陛下です」
この場合のあの方とは王になるというのだ。リラは王に相手にはしてもらえなかった。しかし王に対しての感情は悪いものではなかった。
その感情に基いてだ。王のことを話すのだった。
「陛下の中にあるのではないでしょうか」
「エルザ姫はですか」
「陛下の中にある」
「そうだというのですか」
「そうではないかと思います」
リラは考える目で話していく。
「やはり若しもですが」
「エルザ姫はあの方の中にある」
「そうなのですか」
「あの方の外にあるのではなく」
「あの方の中にこそですか」
「これは不思議なのですが」
リラはまた言った。
「あの方とお話していて男性的なものは感じませんでした」
「男性的なもの?」
「まさか」
「そんなことは」
「長身で容姿端麗であられ」
王の美貌は女優である彼女から見ても際立っていた。まさに彫刻の様なだ。そこまでの美貌の持ち主であると言うのである。それは言う。
「しかしです。男性的なものはです」
「感じられなかった」
「そうですか」
「物腰は男性のものです」
今度はその仕草についての話だった。
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