325部分:第二十一話 これが恐れその十五
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第二十一話 これが恐れその十五
「彼はそう言っています」
「確か」
「確かとは」
「はい、ワーグナー氏の作品はオランダ人以外にもあったのでは」
内心で考えているものを隠してだ。リラは応える。
「リエンツィ等が」
「それと妖精と恋愛禁制ですね」
「その三つの作品があったと思うのですが」
王に合わせて話す。
「そうでしたね」
「はい、あります」
その通りだと答える王だった。
「特にリエンツィは成功していますね」
「そうですね。ですが」
「彼は完璧主義者です」
ワーグナーの完璧主義は有名であった。己の作品の上演には細部に至るまで一切の妥協をせず見落としもしない。財政のことを考慮から外してもだ。そのうえでしているのだ。
そのワーグナーについてだ。王はリラにさらに話す。二人きりでいるがそのことには意を見せずだ。ワーグナーについて話していくのだった。
「一点の曇りも許しはしません」
「それでその三つの作品は」
「彼自身が認めていないのです」
そうだというのだ。
「決してです」
「そうですか。それでなのですか」
「それがワーグナーなのです」
微笑んでだ。王は話した。
「全てにおいて完璧を目指す。素晴しい芸術家です」
「芸術家なのですね」
「フラウ」
リラをこう呼んでだった。
「貴女は女優ですね」
「はい」
リラはこくりと頷いて王のその問いに答えた。
「その通りです」
「ならば貴女も芸術家ですね」
「女優は芸術家ですか」
「違うのですか?」
彼女のその睫毛を長くさせたその目を見ながらの問いだった。
「それは」
「いえ、それは」
そう言われるとだ。リラもだった。
少し戸惑ってからだ。こう答えた。
「舞台を芸術とするならばです」
「女優も芸術家となりますね」
「僭越ながら」
リラは王に答えた。
「そうなります」
「そうですね。芸術家になりますね」
「私はワーグナー氏についてはあまり知りませんが」
「御存知ありませんか」
「また別の舞台に出ていますので」
ワーグナーの舞台にはだ。出ていないというのだ。
「それで」
「そうですか。それでワーグナーは」
「申し訳ありませんが」
「ですが御存知ではありますね」
「知ってはいます」
こう答えはしたのだった。
「それは」
「では、です」
「それでは?」
「今度は舞台にいらして下さい」
王はリラのその顔を見て話した。
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