第五章
第56話 再確認
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正直なところ、存在そのものを忘れていた。
これからのことを考えていたから。
それに比べれば、あまりに小さなことだったから。
あ、そう言えば。
そんな感じだった。
元領主、オドネル。
今さっき、肩書きに「元」が付けられた。
彼が拘束されている部屋には、国王のほか、ヤマモト、女将軍、ランバート、俺、クロ、神、そして警備の兵士たちがいる。
神を除く全員が、厳しい表情で元領主を眺めていた。
「へ、へ、陛下! し、死刑だけは……」
「……」
国王が剣を抜く。かなり重い剣だと思うが、剣先はまったくぶれる気配がない。
拘束されている小太りの男の、「ヒェェェ」という情けない声が、部屋に響く。
「やはりお前だったのか……リクを殺そうと兵舎に隔離して火をつけたのは。許さん」
「ヒェェェ」
「あっ。ちょ、ちょっと待った! 追及するのはそこじゃないでしょ。落ち着いてください」
俺は慌てて国王の前に入り、胸を押さえて止めた。
まず、地下都市とのつながりを追及するのが先だ。それを聞かないと、真相が明らかにならない。
俺はこのとおり五体満足で生きているので、それは別にどうでもいい。
「いいや、そこだ。許さん。斬る」
「ヒェェェ!」
「わー! だから落ち着いて!」
本当に殺しそうな勢いだったので、今度は強く抱くような格好で止めにかかる。
俺のことで怒ってくれるのは嬉しいのだが、なぜ肝心なことを聞く前に殺そうとするのか。平和主義ではなかったのか。
俺も「この人はダメだ」とは思う。
タケルやヤハラが俺を殺そうとしていたのは、敵対勢力の人間が仕事としてやっていたことだ。特に腹は立たなかった。
ところがこの領主は、この国の責任ある立場の人間。まったく事情が異なる。そんな人に殺されかけたわけで、怒りがまったくないわけではない。
しかしながら。まずは細かい事情聴取を、だ。斬ってしまっては解決にならない。
「へ、陛下。ま、待ってください。わ、私が火事で殺そうとしたのは、オオモリ・リク殿ではなく……そちらの……」
オドネルの視線の先は、俺の足元の少し後ろ側。
……え? クロ!?
「あなた、俺じゃなくて……クロを……焼き殺そうと?」
「そ、そうです。事故に見せかけて殺そうと……」
……。
こいつ……。
血が逆流するというのはこういうことなのか――そう思った。
国王ではないが、手を出したくなる衝動に駆られた。
その衝動を抑えるのが、大変だった。
さっきの国王とのやりとりがなかったら。一対一だったならば。
本当に殴っていたかもしれない。
「いったい何があったのか、説明してもらいましょうか」
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