第五章
第56話 再確認
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れてかわいそうだとか、ボロクソに言っていたような気がする。
「いや、それはちょっと違うけど」
「なぜ違うのだ」
「あれは台本だったんだよ。ああ、台本と言ってもわからないか。あれは言わされてたんだ。事実じゃないし、多分この人の本心というわけでもない。そもそも、この人とはそれまで関わりもなかったからな」
「そうか。わかった」
クロは安心したように答えた。
――こいつにはそこが重要だったのか。
なんというか、国王と一緒で、ちょっとズレているというか。
まあでも、嬉しいよ。
室内には、なんとも言えない白けた空気が充満していた。
この領主があまりにみっともないためだろう。
兵士たちすらも、呆れたような目で見ていた。
「リクからは何かあるか?」
国王から話を振られた。
「んーと。そうですね。ちょっとこんなときに、おかしなことを言うかもしれませんが――」
「……?」
「元の時代にいた頃は、俺、クロとあまり絡みがなかったんです。ま、俺が悪いんですけど。ほとんど世話もしたことがなくて。
だから、あの頃は一緒には住んでいたんですけど、仲間という感じはあまりなかったんですよね」
下を見ると、クロが少し遠い目をしている。
元の時代のことを思い出しているのかもしれない。
「でもこっちに来てからは、いつも一緒にいましたし、何度も助けられたりもして、だんだん本当の仲間になってきていたというか。
まあ、俺が思っているだけで、クロもそう思っているのかはちゃんと聞いてはいませんけど」
「……」
クロが、俺の足に少しだけ寄りかかってくる。
そして「リク――」と小さく呟いてきたので、わかっているからと手で制する。
「そういうことなので、仲間が暗殺の対象になって、そして犯人はこの人というわけです。今ここで、自分の手でこの人をぶん殴りたいと思ってしまいました」
また「ヒェェェ」という情けない声がする。
クロが「リク、その気持ちだけで私は――」と小さく囁いてきたが、それもまた手で制した。
「まあでも。そのクロが、俺がそこまですることを望んでいないようです。俺自身も、クロとの関係を再確認できたいい機会だったと思うことにしますよ。処分はお任せします。俺は見届けません」
正直、さっき血が逆流するまでの怒りを感じた自分に、少し驚いたというところもあった。
すっかり、自分の中でクロとの関係は強固なものになっているようだ。
そしてそれが、嬉しくもあった。
国王は俺の言葉を聞くと、「わかった」と言ってうなずいた。
そして、少し笑った。
「リク……。ということは、だ。余がこいつを殺したいという気持ちを持ったことも、わかってくれたと思っていいのか?」
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