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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生
74話:K文書
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..」

「私も事実解明を命じられた訳ではないのです。昇進が急でしたので適当な役目が見つかるまで、歴史家の真似事をして来いと言うような状態でして。軍ではこれを『K文書』と呼称していますが、仮に文書の内容が真実だったとしても、アッシュビー提督は同盟軍の英雄中の英雄です。その功績の一翼を、『亡命者が主導するスパイ網が担っていた』となると、亡命者への世間的な風当たりも考慮すると、公にはされないと思います。ローザス提督は文書の中身についてはどうお考えでしょうか?」

「そうだな。非公式での見解という事になるが、十分に事実である可能性は高いとは思う。思い返せば、ブルースの判断は戦理に適うものばかりではなかった。にも関わらず勝利した。帝国内部のスパイ網からの情報を判断材料にして戦術を組み立てていたとなると、腑に落ちる部分もあるし、やはりブルースは天才だったと思う部分もあるな」

私の理解が追い付いていないと判断されたのだろう。提督は苦笑しながら解説してくれた。

「仮にスパイ網から情報が得られたとしよう。作戦案は数ヵ月前から用意されるから探ることは可能だ。だが、刻一刻と変わる戦況の中で、限られた情報の中から敵の意図を完璧に推察し、時には戦理に背いてまで対応策を実行し、勝利する。そんなことは常人には不可能だ。得られる情報も断片的なものだったはずだ。これが事実と仮定するなら事前に得た断片的な情報と、戦況を通じて得られた情報から帝国軍の意図を読み切った訳だ。言ってみれば情報を扱う天才だな。戦理に背く判断にもこれなら納得がいく。だが、可能なら私にだけでもこのことを話してほしかった気がするな。そうすれば、もう少しブルースとその僚友たちとの衝突も抑えられた気がする」

提督はすこし悲し気な表情をされた。第二次ティアマト会戦の前までは、何だかんだと衝突しながらも、それが刺激になって戦功を上げ続けたのが730年マフィアの面々だった。だが第二次ティアマト会戦の時期には組織としての寿命が尽きかけていたのも事実だろう。アッシュビー提督の独断的な指揮に、他のメンバーが抱えていた不満が実際に爆発していた。会戦には勝利したものの、コアだったアッシュビー提督を失った730年マフィアは、それまでの様な団結をすることはなく、各々が重職を歴任したものの、輝かしさを取り戻すには至らなかった。

「少佐の任務の終着点がいずこになるかはわからないが、男爵には返信を認めねばさすがに非礼だろう。こちらの対応が確定したら教えてもらえると助かる。退役した老人があまり我儘を言うものではないとは思うがね」

ローザス提督はその言葉で、会談を締めくくった。ローザス邸を辞去すると、統合作戦本部にもどり、与えられた一室へ向かう。部屋に入ると、補佐役についてくれたパトリチェフ大尉が声をかけてきた。


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