74話:K文書
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「男爵が捕虜交換で帝国に戻ることになった折も、丁寧な礼状を送ってくれたよ。本来なら帝国に戻るつもりはなかったが、恩義のあるルントシュテット伯のお孫さんが捕虜交換の提案主だから、顔向けできる立場ではないが帝国に戻るとね。帝国では捕虜への風当たりは必ずしも良くないだろうから、まずはその対応に尽力したいとも書かれていた。
礼状をもらってから36年の月日が経っている。私も年を取るはずだ。そしてそのお孫さんのザイトリッツ少年が、あのリューデリッツ伯な訳だから、人との縁は何でつながるのかわからないものだ。意外に宇宙は狭いのかもしれないな」
そう言いながら、サイドテーブルから格式高い封書を取り出し、私に手渡した。
「この件で少佐を担当に願ったのはケーフェンヒラー男爵からの資料にこれが同封されていたからだ。リューデリッツ伯から君宛の手紙だ。間違いは無いと思うが、念のためここで開封して、内容を確認させてもらいたい。少佐が諜報員だとは思わないが、この手紙の存在は内密にした。その対価だと考えて欲しい」
了承の意を込めてうなずくと、提督にペーパーナイフを借りて、なるべく蝋封に入れられた伯爵家の紋章を傷つけないように開封する。これも歴史的な資料になるかもしれないと思うと、自然と扱いも丁寧になった。内容は短いものだった。一読して、手紙を提督にお渡しする。提督もすぐに読み終わったのだろう。すぐに手紙を戻してくれた。
「そういえば彼の師匠にあたる先代のシュタイエルマルク提督も、こういう事をする方だった。『卿の功績に敬意を表す。活躍は祈れぬが、健康を祈る』か、シュタイエルマルク提督はしっかり『人』も遺されたのだな。ブルースを失った『730年マフィア』はコアを失ってバラバラになってしまった。第二次ティアマト会戦で大敗したからこそ再建に必死になった帝国と、ブルースを失ったものの、国防に不安が無くなった同盟。あれから45年近く経って、戦況は再建に必死になった帝国が優勢と言うのも、皮肉を感じるな......」
なんとも回答に困る話だった。確かに第二次ティアマト会戦の敗戦が、結果として帝国を強化する事につながっていくし、イゼルローン要塞建設もその流れのひとつだ。歴史をひも解くと、得てして会戦に負けた側が団結して国力を高め、結果として戦争に勝利する事例にはいとまがない。730年マフィアの面々が作った猶予を同盟政府が空費してしまったのだとしたら、ローザス提督にとっても不本意なことだろう。
「少佐にこんなことを言っても仕方がないか......。それで男爵からの資料については、私は何を話せばよいだろうか?彼も私と同年代だし、あの敗戦の要因を調べたうえで、旅立ちたいというのは本心だろうが、ダメ元で送ってきただろうし、本気でリアクションを期待しているとも思えないが....
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