73話:奇跡
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ファシル星系を一時的にとは言え占拠する事が出来た。隙あらば更なる戦果を上げようと言う軍の戦意の高さを頼もしく思っている。引き続き、この勢いを維持してくれれば、戦況の優勢が揺らぐことが無いと確信している。よろしくお願いしたい」
何度も観た映像だ。一旦ここで言葉を区切り、自信ありげな表情から一気に悲し気な表情をしてから言葉を続ける。
「一部からはエルファシル占拠にあたって、住民の脱出を許した事へ非難する声があると聞く。『エルファシルの英雄』ヤン・ウェンリー氏にしてやられたのは事実だろう。だが冷静に考えて見て欲しい。私がお付き合いのある領主たちは、領民を置いて逃げるような方はひとりもいないし、領民の生活と安全を守るために最大限励まれている。同様の価値観をあちらの為政者たちが持っているとすれば、最前線に近い300万人が暮らす惑星だ。大規模な駐留基地の存在を見込んでいたし、強行偵察のつもりが予想外に防衛戦力が少なく、あれよあれよという間に占拠に至っていた。と言うのが実情だ。つまり、帝国が臣民の生活を守っている感覚で想定したら、あまりにもずさんな防衛体制だったという事だ」
ここで、また言葉を区切り今度は怒りの表情になって話が続く。
「一部の共和主義者の中で唱えられていることが事実ではないことがはっきりした。宇宙のあちら側では帝国ほど、民衆の生活や安全は守られていないのだ。正直に言おう。今回の失態は私の不徳とするところだ。だが、私も領主として統治する側の人間だ。ここまで領民の安全と生活が軽視されているとは思えなかった。軍は占拠の合間に惑星エルファシルのインフラを徹底的に破壊した上で撤収した。想像してみて欲しい。育ってきた故郷が一切合切破壊される事を。それをもって溜飲を下げてくれればありがたい。
もっとも、今回の事は戦訓とするが、軍首脳部は決して戦力を過小評価しない事で一致している。戦況は優勢に進んでいるが一人でも戦死者を減らす方向はこれからも変わらないので安心してほしい。帝国軍はこれからも臣民の生活と安全を守るために戦っていく。生活が脅かされるような事態は断じて許さないので安心してほしい」
ここで公式発表は終わる。これを見た市民たちは、むしろ彼を代議員に選びたいと思うのではないだろうか。特に被害を受けたエルファシルの避難民達の中には、故郷を破壊した帝国軍ではなく、300万人を守るにはあまりにも少ない防衛戦力しか割り当てなかった同盟政府に批判を向ける者も多いとか。帝国臣民に同盟政府はあてにならないと思わせ、同盟市民にも政府への不満を煽る内容だ。
統治者として、同様の立場にいるはずの者たちの配慮の無さへの怒りもあるのだろうが、これで彼には政治家としての才能もあることが明確になった。こちら側に生まれてくれていれば、年長の友人としても、上官として
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