73話:奇跡
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ば、一個艦隊分位の予算が消えるだろうが、今回は彼の策に乗るべきだと個人的には思っているよ。ただでさえ市民たちは長引く戦争と重税にあえいでいる。ここでいざという時に切り捨てられると思われれば、それこそ同盟が崩壊しかねないからな。
まあ暗い話は今は止めておこう。シトレ提督からも『良い教え子を持てた』とのお言葉を預かっている。ヤン、お前さんは誇って良い事をしたんだ。もうしばらくは不本意だろうが道化を演じてくれ。その後は、お前さん好みの任務が割り当てられるように手配しておくから」
そう言い残すと、先輩は通話を終えた。『誇ってよい事』かあ。自分自身ではそうは思っていない事をうすうす先輩も感じているのだろうか?軍の広報課が取り仕切るインタビューでは、実際の脱出作戦の詳細は機密とされ、好きなものや座右の銘など当たり障りのない事しか聞かれない。皮肉な見方をすれば、守るべき市民を見捨てた防衛司令官とその防衛司令官をおとりにして脱出作戦を敢行した部下の話だ。そんな話の詳細など広められても、『軍が守るべき市民を見捨てた』という事実が広まるだけだ。300万人を脱出させたことを『奇跡』と持ち上げて、市民の目を逸らす道化にする事が目的なのだから当然なのだが......。繰り返される中身の無いインタビューには正直うんざりしていた。
「それにしてもやり手というか、打つ手にそつが無いというか、さすがというか......」
事の始まりは、4月に赴任したエルファシル星系に、駐屯していた守備艦隊と同数の分艦隊が、おそらく強行偵察だったのだろうが、迫ってきた事から始まった。初戦はなんとか引き分けに持ち込むことが出来たが、帝国の後退は擬態で、油断した守備艦隊は後背を突かれ敗退。帝国軍は周辺に遊弋していた艦隊を呼び寄せて、一気に惑星エルファシルを占領する動きを見せた。
戦力は圧倒的に少なく、前線でも後方でも実績を残してきたリンチ司令でも取りうる選択肢は2つしかなかった。『全滅覚悟で増援が来るまで戦う』か『包囲を破って増援を呼びに行く』かのどちらかだ。だが、どちらを選んでも惑星エルファシルの市民300万人は危険にさらされる。当然の権利として市民たちは脱出作戦の実施を求め、異動してきたばかりで暇そうな私が、その担当になった。
計画立案と、実施準備までは手配したが、民間の輸送船がのこのこと帝国軍の包囲の前に出て行っても、脱出できる訳が無い。防衛司令部の雰囲気が、『全滅覚悟で戦う』物ではなかったので、リンチ司令は包囲網の突破を考えていると判断し、帝国軍の目が突破を図る守備艦隊に向いた時を見計らって、反対方向に脱出した訳だ。軍用船ではなく民間船だったことも危機的な状況に思わぬ幸運をもたらしてくれた。
レーダー透過装置が無かったことから、あまりにもはっきりとレーダーに映った為、『戦闘領域で
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