31部分:第二話 貴き殿堂よその九
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第二話 貴き殿堂よその九
ビスマルクとの出会いの後で太子はだ。周囲にこう問われていた。
「それで殿下」
「そろそろですが」
「お相手を」
「お后様はどうされますか」
「それか」
そう言われるとだった。太子の顔が曇った。
そしてそのうえでだ。こう言うのであった。
「后。私の生涯の伴侶だが」
「はい、どういった方が宜しいですか」
「それで」
「どういった方が」
「殿下のお好きな女性はどういった方ですか」
「一体」
「そうだな」
周りの言葉を聞いたうえで話した。その女性とは。
「彫像だ」
「彫像?」
「彫像といいますと」
「それは一体」
「どういう意味でしょうか」
「何も言わずそこにいるだけでいいのだ」
これが太子の好きな女性だというのである。
「それだけでだ」
「いえ、それではどうにもです」
「お言葉ですが私にはわかりません」
「私もです」
「どうしても」
皆太子のその言葉に首を傾げさせる。そうしてまた言うのだった。
「ですからそれはです」
「どういった意味ですか」
「一体」
「何がどういうことか」
「美しい」
太子は呟くようにして話した。
「そうだな。エリザベートやエルザの如くに」
「エリザベート?エルザ?」
一人がその言葉に首を捻った。
「それはどういった方ですか」
「あっ、それは」
同僚が彼に話してきた。すぐにだ。
「ワーグナーのオペラに出て来る女性だ」
「その女性なのか」
「そうだ、オペラのだ」
それだというのである。
「それだ」
「さて」
そう言われてだ。何人かが首を捻ってしまった。
「オペラの女性と言われましても」
「それがどういった方なのか」
「清らかな方でしょうか」
また一人が言った。
「私もワーグナーは知っていますが」
「知っているのだな」
「はい、そのどちらも清らかな姫でございますな」
それはわかるというのである。
「確かに」
「そうだ、何処までも清らかだ」
「しかしそれでもです」
「どちらも現実にはいません」
「そうですが」
ここでだった。彼等はこう太子に話した。
「それでもなのですか」
「理想の女性と言われますか」
「現実か」
太子は現実という言葉に反応を見せた。その反応は面白くなさそうだった。そしてそのうえでこんなことも言う彼であった。
「現実が何だというのだ」
「何かと言われましても」
「我々は現実にいます」
「この世にです」
「それでこんなことを仰るのは」
「どうなのでしょうか」
「醜いものだ」
これが彼の今の言葉だった。その現実についてのことだった。
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