第五章
第53話 使節団
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オサダとハヤシは、その場で胸に一度手を入れた。
どこかで見たナポレオンの肖像画のようだった。地下都市特有の儀礼なのだろうか。
両陣営が見ている前で、オサダと国王、そしてハヤシと俺が抱擁するために近づこうとする。
――ん?
足元に若干の違和感。
いつも俺の少し後ろにいるはずのクロが、ちょうど真横に出てきた。
不思議に思いながらも、後ろに下がるようクロに手で合図を出す。
しかしクロは下がらなかった。
――どういうことだ?
気のせいか、少し「ジジジ……」という音がする。
クロからか?
いや、違う。なんだ?
クロがさらに前に出る。
そして全身の毛を逆立てて、俺に叫んできた。
「リク! 火の臭いだ!」
「――!」
臭いは、俺には感じなかった。
しかしクロの鼻に疑いは持たなかった。
そして声の調子から、ただの火ではないであろうことが、瞬時に判断できた。
体もすぐに反応してくれた。
俺は目の前のハヤシを思いっきり前蹴りし、反対側の壁のほうへ飛ばした。
続いて、まさに国王と抱擁しようとしていたオサダにも横から体当たりし、遠くに飛ばす。
そのまま片手で国王の腕を掴んだ。部屋の入口のほうに向けて、クロをもう片方の手で抱え込みながら、滑り込むように頭から飛ぶ。
「みんな! 伏せろ!」
飛びながら、力の限り叫んだ。
他の人間にそれが伝わり、それに従ってくれたかどうかは、わからない。
だが、精一杯の祈りは込めた。
直後、爆音と衝撃が、うつ伏せになった俺の体を襲った。
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