暁 〜小説投稿サイト〜
緑の楽園
第五章
第53話 使節団
[4/4]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
オサダとハヤシは、その場で胸に一度手を入れた。
 どこかで見たナポレオンの肖像画のようだった。地下都市特有の儀礼なのだろうか。

 両陣営が見ている前で、オサダと国王、そしてハヤシと俺が抱擁するために近づこうとする。

 ――ん?

 足元に若干の違和感。
 いつも俺の少し後ろにいるはずのクロが、ちょうど真横に出てきた。
 不思議に思いながらも、後ろに下がるようクロに手で合図を出す。
 しかしクロは下がらなかった。

 ――どういうことだ?

 気のせいか、少し「ジジジ……」という音がする。
 クロからか?
 いや、違う。なんだ?

 クロがさらに前に出る。
 そして全身の毛を逆立てて、俺に叫んできた。

「リク! 火の臭いだ!」
「――!」

 臭いは、俺には感じなかった。
 しかしクロの鼻に疑いは持たなかった。
 そして声の調子から、ただの火ではないであろうことが、瞬時に判断できた。

 体もすぐに反応してくれた。
 俺は目の前のハヤシを思いっきり前蹴りし、反対側の壁のほうへ飛ばした。

 続いて、まさに国王と抱擁しようとしていたオサダにも横から体当たりし、遠くに飛ばす。
 そのまま片手で国王の腕を掴んだ。部屋の入口のほうに向けて、クロをもう片方の手で抱え込みながら、滑り込むように頭から飛ぶ。

「みんな! 伏せろ!」

 飛びながら、力の限り叫んだ。
 他の人間にそれが伝わり、それに従ってくれたかどうかは、わからない。
 だが、精一杯の祈りは込めた。

 直後、爆音と衝撃が、うつ伏せになった俺の体を襲った。
[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ